外世界研究会(前)
◇
ふいに名前を呼ばれたかと思うと、クレアが中庭をつっきって、かけ寄ってきた。
「ジェネラルじゃないですか。どうしたんですか?」
「彼に少し
クレアは僕とジェネラルの顔を交互に見た。
「君は彼とデビッドの試合を見たのかい?」
「私は見ましたよ」
「君の目に、彼はどのように映った?」
「ウォルターは――不思議な技を使いますよ」
ジェネラルは僕への
制止の意味をこめて、すかさずクレアのそでを引っぱった。先日、クレアに空中飛行の事実がバレた際、ある条件と引きかえに
「この間の試合で見せたアレのことを言ってるの」
そうだった。あの約束はあくまで空中飛行に関することだ。それも隠したい事実だけど、大勢の観衆に目撃された以上、彼女だけ口止めしても意味がない。
「ウォルターには私という先約がいますから。彼と戦いたいのなら、私の後にしてくださいね」
クレアが腕にさり気なく手を回してきた。本来なら喜ぶべき状況だけど、鎖につながれた気分だった。
ジェネラルの顔つきが変わった。さっきまでの
「君は彼に勝てると思うかい?」
「もちろん、負ける気はありませんよ。やってみなければわかりませんけどね」
ジェネラルの瞳に闘志が
◇
噂のジェネラルは、やっぱりオーラが違った。また一つ頭痛の種が増える予感がしたけど、クレアのおかげで難をのがれた――と思いたい。
「ねえ、少し時間ない?」
クレアは瞳をうるませて、幸せそうな表情で言った。彼女との間に何もなければ、
本当はいそがしいけど、言われるがままクレアの後にしたがった。連れて行かれたのは東棟の三階にある倉庫のような一室。様々なものが
中央に置かれたテーブルはホコリをかぶり、天井の
この手ぜまな部屋が、長らく放置されていたことは疑いようがない。クレアがわざとらしくせきばらいをしてから言った。
「
「まだ会員は二名にすぎませんが、この場所で月に一回会合を行います。ここまでで質問ありますか?」
毎日のように何か手伝わされたらたまらないと思っていたので、月イチと聞いて安心した。
「会員の
「もちろん。
クレアを甘く見てた。月イチで満足するわけないか。
「じゃあ、具体的にどういうことをやるかを」
「
思った以上に野望が
「晴れの第一回会合は今度の日曜日です。とりあえず、ここの掃除を行います。会員の出席は絶対厳守です。わかりましたか?」
「……わかりました」
休日をつぶされるけど、弱みをにぎられた以上、拒否権はない。身から出たサビだし、これで秘密を守ってもらえるなら安い物か。
クレアが心から楽しんでいるから、よしとしよう。
◇
おたがい仕事をぬけだして来たので、その後すぐに解散した。終業後、報告や相談のため、パトリックの屋敷へ寄った。
コートニーとスージーの二人は、食材の買い出しに行くと、先に屋敷を後にした。ロイは
「別にかまいませんよね?」
まずは外世界研究会のことを報告し、確認をとった。すると、パトリックは深いため息をついた。
「のめり込んでほしくないですが、事情があるなら仕方ありません。彼女の機嫌をそこねないよう、
〈外の世界〉や〈樹海〉がからむと、パトリックは異常に神経質となる。
「彼女は復活させると言ってましたけど、以前にも存在してたんですか?」
「はい。私が立ち上げた張本人であり、彼女もその一員でした。いろいろと問題が起きて五年前に解散しました」
五年前といえば中央広場事件か。話の流れからすると、主犯の
「そもそも、なぜ空を飛ぼうなどと思ったんですか?」
「興味
「試合で魔法と能力を併用する状況が思いうかびませんが」
「試合だけが戦いではないですよね? 〈侵入者〉とか、例のトランスポーターとか」
その場しのぎの言いわけではない。練習している時は、自由に空を飛びまわる欲求がまさったけど、常に〈侵入者〉との戦いは意識していた。
「〈侵入者〉との戦いまで想定してくれているのなら、こちらとしてはありがたいです。ただ、今回はそれで
最後に釘をさされたけど、思いのほか好意的に受け止められた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます