催眠術師(中)
◇
「何か質問はありますか?」
パトリックが自ら大半をさらけ出したので、〈
「この世界には能力を持った人達がたくさんいるんですか?」
「あまりいません。〈外の世界〉なら事情は変わってきますが、このレイヴンズヒルにかぎれば、私とあなた以外の能力者はいないと思います。少なくとも、私は知りません」
能力者が特別な存在なら、昨日の件も納得できる。パトリックがさらに続けた。
「そういうわけですから、他の方には私の能力のことを秘密にしていただけませんか? 実際、私は信頼の置けるひと握りの人間にしか、能力のことを明かしていません。私の能力は、どうしても相手に
無論、私もあなたの能力を口外するつもりはありませんし、あなたもそうすべきだと思います。この国において、私達のような能力者は一般的でないのです」
パトリックとは出会うべくして出会ったような、運命的なものを感じた。彼の提案は理にかなっているし、その約束を守るつもりだ。ただ、一つだけ気になったことがある。窓ぎわにたたずむダイアンへ視線を送った。
「ダイアンは知っているのです」
言葉にする前にパトリックは意図を察した。
「まだ私が東南地区の下級役人だった頃、能力の使用を彼女に見とがめられまして。秘密にすると約束してくださったので、つい白状してしまいました。その時、能力を私利私欲のために使わないとも約束いたしました」
二人の意外なエピソードに感心していると、間が悪いことに、腹の虫が鳴った。そういえば、起きてから何も口にしていない。パトリックが顔をほころばす。
「食事を用意させましょう。あなたにはお聞きしたいことが山ほどありますので。ダイアンも一緒にどうですか?」
二人でパトリックの好意に甘えることにした。
「彼女は非常に勘がするどいですから、隠しごとをする際は、よくよく気をつけてください」
去りぎわに、パトリックが茶目っ気たっぷりにささやいた。
◇
僕、ダイアン、パトリックの三人でテーブルを囲む。この国の昼食はおやつ感覚の間食らしく、運び込まれた料理はパンとスープの二品と簡素なものだ。
薄切りのパンにはバターとチーズが添えられ、塩味のスープには野菜、豆、魚の切り身が入っている。極度にお腹がへっていたせいか、口に入れたそばから、体内へしみ込んでいくようだった。
「私は数多くの肩書きを持っています。
今まで出会った人にしても、街を行きかう人にしても、この世界は子供ばかりではない。中学生と見まがうパトリックが、重要な役職について、指示や命令を出している場面が想像できない。
「こんな幼い容姿なのに信じられない――と思いましたか?」
図星だったので苦笑いした。何もかも見すかされていたようだ。
「人間が誕生し、成長し、死ぬことを、我々は本能的に知っています。しかし、この国の人間は年をとりません。それが具体的にいつから始まったかはわかりませんが、我々は現状になれきってしまいました。この国の一線で活躍する方には、私と同年代の方がめずらしくありませんよ」
すぐには飲み込めない謎めいた話だけど、二人が十年来の知り合いだという謎は解けた。
その後、ダイアンとパトリックの昔話に花が咲いた。経歴の全く異なる二人の間に、過去の思い出が息づいている。
本当にここは、自分の心にだけ存在する想像の世界なのだろうか。眠っている時だけ、別世界に迷い込んでいる気がしてならなかった。
◇
「ダイアン。少しの間、席をはずしてもらってよろしいですか?」
食事を終えると、パトリックがそう持ちかけた。ダイアンの前では話せない話をするということだろう。食事中、彼にはウズウズとした様子があった。
「さて――、ウォルターは〈侵入者〉をご存じですか?」
「はい。ダイアンから少し耳にしました」
「こちらとしては、〈侵入者〉であるという疑いを、まっ先にウォルターへかけなければいけません」
〈侵入者〉は〈外の世界〉か来た人間達のことで、
「これから、〈侵入者〉に関わる質問を行います。それに
すぐに〈
「わかりました」
断る理由も恐れる理由もない。〈侵入者〉ではないのだから、疑いを晴らす絶好のチャンスだ。
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