対抗戦対策会議(後)
◇
「炎を風に乗せてあやつる感じです」
ケイトのアドバイスはピンとこない。自分でもそうしたつもりだった。
一回目より
そよ風が
「えー……」
ケイトが言葉を失った。対して、スコットは喜びが抑えきれない様子で、ポンと僕の肩にやさしく手を置いた。
「あきらめろ。ウォルターの魔法は威力が強すぎるんだ。手加減が
まっ先に失敗の要因を
パトリックは
「ウォルター、忘れたのか? お前は『風』のみで、事もなげにデビッドをくだしたじゃないか。同じ
「時間はあります。あせらずゆっくり考えましょう」
魔法の連携に失敗することを、パトリックに相談しようか。ただ、相手は魔法を研究していても、使うこと自体は
回避策がないか、しばらく自分の力で
ふいにケイトが僕の肩に手をかけ、スコットに背を向けさせた。
「あの……、ちょっといいですか? スコットのことで相談があるんです」
そう切りだし、隠す気がさらさらない
「うちの
でも、『俺は風のみでのし上がる』なんて
「俺、陰でそんなこと言われてるの!?」
ケイトはスコットのツッコミを無視して話を続けた。
「素直に『火』と『風』の組み合わせで試合にのぞめば、楽々と序列をもらえる実力を持っているんです。そこでお願いなんですけど、ウォルターのほうからひと言、スコットに言ってもらえませんか?」
「うん……」
僕は言葉をにごした。横合いから熱い視線が注がれている。改めて伝える必要性は感じなかった。
「別に悪い気はしないけど、この距離だとまる聞こえだ。そういう話は当人のいないところでしようか」
ケイトもわざと聞こえるようにしていた。相手を思っての発言だから、スコットの言葉に
◇
「くすぶっているのは俺だけじゃないだろ? ケイトだって、レイヴンズヒルをしょって立つ魔導士の一人と、昔は言われてたそうじゃないか」
「
初めて耳にする話だ。ここ数年、ケイトは試合に出ても、一分と持たずに降参に追い込まれる状況らしく、魔導士として上をめざす気持ちはさらさらないと言っていた。
現在
「昔のケイトをよく知らないけどさ、その話を何人からか聞いたぞ?」
「……ある時期をさかいに魔法の使い方がわからなくなったんです。それがいつであるかさえわかりません。全てが夢の中の話のようで、本当に夢だったのかもしれません」
「じゃあ、いわゆる『
「それはわかりませんけど……、『転覆』した後のような気もします」
『転覆』前については、パトリックから雲をつかむような話を聞かされただけ。話を掘り下げたい欲求がこみ上げた。けれど、自分の過去に話がおよびかねないので、慎重に話を進めなければ。
「二人は『転覆』前に何をしてたの?」
少し間を置いてから、さり気なく尋ねた。
「『転覆』前の記憶はとぎれとぎれであやふやです。まわりの人達が言うように、魔導士として
「俺は結構おぼえてるぞ。北東の
『転覆』前はゾンビがいなかっこと、別種族の人狼のことなど、
この国の人達には、巫女や『転覆』前に関する記憶がぬけ落ちているという共通点があり、ケイトはこれまでの人達とよく似ている。
一方、スコットの記憶は比較的はっきりしている。もしかしたら、レイヴンズヒルにいなかったり、巫女と関わりが少なかったからだろうか。
ふと顔を上げると、二人から待ちわびるような視線を注がれていた。話の自然な流れでは、次は自分の番だ。ただ、うかつに話を作れば、あとで
「その頃から、キツネと一緒に暮らしてたのか?」
自分には『人間よりもキツネが多い辺境の出身』という設定がある。スコットはしっかりおぼえていてくれたけど、その言い方だと意味合いが変わる気がした。
「まあ、一緒に暮らしてたわけじゃないけど……」
ここはごまかすしかない。家庭に複雑な事情をかかえている、あるいは暗い過去を背負っている雰囲気で答えた。
「……キツネとは打ち解けられるものなんですか?」
キツネは身近な動物ではない。
言葉をつまらせていると、思わぬ人物から救いの手が差しのべられた。
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