不運な出会い(前)
◆
ウォルターが去ってから、パトリックは意味もなく『
ふと
「どうしました?
「ああ……。まるで、夢から覚めたような感じだ……」
いったい自分は今まで何を――。ためらいなく行ってきた
辺境伯が〈
かねてから望んでいたことだけに、彼は二つ返事で引き受けてしまった。
『転覆の魔法』が解けたことで契約は
「やはり、何らかの能力をかけられていたようですね。あの日、〈樹海〉で何が起きたのか教えてくれませんか?」
「わからない……。あの日、多くの仲間を失った。誰が味方なのか、誰が敵なのかもわからず、俺たちは
ダレル・クーパー――実際は、彼の体を乗っ取ったスプーと、辺境伯は死闘をくり広げた。
「戦闘は俺が
そして、変わり果てた姿となった彼らを、次々と発見することになる。
「俺がダレルをやれていれば、こんなことにならなかったかもしれない。俺は
まだ生存者がいるかもしれない。わずかな望みにかけて、辺りが
「結局、誰一人見つけられず、立ち上がる気力も、生きていく気力さえも失いかけていた。そこで俺は……何かに出会った」
明け方、何かが近づいてきた。その光景はおぼえていた。しかし、近づいてきた何かの部分だけが黒ぬりになっていて思いだせない。
「そして――生きたいと願った」
当然、その後のやり取りも記憶にないが、その心情だけは彼の胸に残っていた。
その時、階段のほうから足音が聞こえた。ほどなく姿を現したのは、後ろに二人の魔導士をしたがえ、あざやかなドレスで
「ダイアン」
パトリックと違って、スージーはすぐに気づいた。
「……
辺境伯にいたっては、巫女であることさえ見ぬいた。
「あっ、巫女。彼は……」
ダイアンは魔導士の
相手はおどろきの行動に出た。あわてて
『
「申しわけありません。俺はとんでもない
「ライオネル」
「……はい」
辺境伯は声をふるわせた。国に対する反逆行為を犯した身として、罪の意識で顔を上げることができない。
「顔を上げて」
ダイアンは相手の目をまっすぐ見つめて、心を読んだ。そこから聞こえたのは
「もう大丈夫ね」
ダイアンは優しく、さとすように言った。
「……はい」
今までの行為にも自覚があったわけではない。辺境伯は迷いを見せながらも、
(ダイアンが巫女……)
パトリックは話の
心臓の
(今なら、巫女の息の根を止められる)
さながら先ほどまでの辺境伯のように、理性的な思考が
背後から近づき、一気に首をしめ上げる。そのシーンがパトリックの脳内でくり返し再生され、かたわらの魔導士の姿も目に入らなくなった。
足音をしのばせ、息を殺しながら近づく。近くで様子を見ていたルーが、
「おっと、チビ
パトリックが我に返った。しかし、自分が何をしようとしていたのかさえ、すぐにわからなくなってしまった。
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