アシュリーの告白(中)
◇
「メイフィールド家が
その日、お嬢様のご両親に悲劇が降りかかりました。深夜、食料を盗むために押し入った〈侵入者〉から、出会いがしらに銃と呼ばれる武器で撃たれ、お
執事が無念そうに語った。アシュリーも暗い表情で、ワンピースの
〈侵入者〉――この国へトランスポーターが送り込んだ
「しかし、それは始まりにすぎませんでした。不幸は重なるもので、その同年に、収穫を間近に控えた小麦畑が
ただでさえ、年々低下し続けていた小麦価格が追いうちとなり、
まさにふんだりけったりとはこのことかもしれない。先輩は真剣に耳をかたむけている。日頃の
「そんな折に、今回の話がベレスフォード卿から持ち込まれました。話の内容を
『賃貸料は小麦で得られる収入の二倍を払う』、『これから小麦価格はさらに下がり続け、そうなれば領民の多くは
執事が
「私は両親の残した農地を守りたい気持ちが強いです。領民も小麦の栽培を続けたい者が大半でした。財政的な問題だけ見れば魅力的な話ですが、あの方の提案で何より受け入れがたかったのは、領民の相当数が移住と転業を
アシュリーが決意の宿ったまなざしをこちらへ向ける。声はか細いながら力がこもり、胸にせまるものがあった。
どうにかして、彼女の力になりたいと思った。
「ところで、その方は土地を借り受けて何をするつもりなんでしょうか? 小麦だとか、別の作物をお作りになるわけではないですよね?」
先輩が
「詳しくは存じ上げませんが、倉庫街にするようなお話をうかがいました」
先輩の堂々とした物言いに、執事も意表をつかれている。先輩は普段着なので、格好だけ見れば従者にしか見えない。ただ、
「事件が起こる以前は四名の使用人を一年を通して雇っておりました。ですが、現在は
ご両親を失われたお嬢様には
執事が
「何でも言ってください。
二人を勇気づけるように言った。心なしかアシュリーの表情がやわらいだ気がした。
◇
それから
「相手は大物なんだろ? そんな安うけ合いして大丈夫か?」
外へ出るなり、先輩にいさめられた。
「望むところですよ。知らんぷりなんてできません」
「君は意外と頑固なところがあるな」
苦しんでいるアシュリーに、なぜパトリックは手を差しのべなかったのか。そのことを考えていたら、無性に腹が立った。
「今から
「それはかまわないが、またあそこまで戻るのか」
先輩がうんざりした様子を見せる。
「君の能力は本当に使い勝手が良いな」
始め先輩は感心していたけど、三十分のタイムリミットがせまり、いったん能力を解除すると、こう
「疲労をなかったことにできるわけではないのか」
この使い方にはもう一つ欠点がある。絶えず意識を集中しなければならず、身体的な疲労は軽減できても、精神的にはかえって疲れることだ。
◇
パトリックの屋敷に到着してから、三十分足らずで
「どうもお待たせしました」
パトリックは大急ぎで帰ってきたのか肩で息をしている。さっそくアシュリーの話を切りだすと、即座にこう反論された。
「私が一言でもそのようなことを言いましたか?」
これはパトリックが正しい。なかなか次の言葉が口をついて出なかった。
「学長が言ってないのは認めます。たとえそうであっても、冷たいじゃないですか」
「残念ながら、先の一件を不問にふすため、両家の問題に介入しないとベレスフォード卿と約束してしまいました」
「君が悪いんじゃないか」
「……僕が悪いんですか?」
「ウォルターが責任を感じる必要はないですよ。両家の問題に介入する意思は、始めからありませんでしたから。いくら
城におけるパトリックの待遇を見ると、相当の権力者のように錯覚するけど、やはり平民出身ということが足を引っぱっているのだろうか。
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