アシュリーの告白(後)
◇
「計画の具体的な中身はご存じですか?」
「もちろんです。一口に言えば、メイフィールドを倉庫街にするというものです。
以前は西部を
地理的要因から、従来は北地区に倉庫が集中していたものの、水運の場合、積み荷を
幸か不幸か、メイフィールドはレイヴンズヒルに
最終的には市街を拡張し、メイフィールドの一部をレイヴンズヒルに組み入れることを
そこでひと息入れたパトリックが、僕をまっすぐに見すえて言った。
「これがベレスフォード卿の思いえがく計画です。これを耳にした時、私は完璧な計画だと思いました。経済的で理にかなっていて、私は何一つ異をとなえられませんでした。ウォルターもそう思いませんか?」
「経済的だとか、理にかなっているとか、そんなことはどうでもいいんです。これは気持ちの問題ですから」
「それは
それに立ち向かう覚悟はあるのか。パトリックのまなざしはそう問いかけていた。そして、それは僕に
「私にウォルターを引き止める権利はありませんが、いたずらにこの問題へ首をつっ込めば、先の一件がむし返される危険をはらんでいることを、胸にとどめておいてください」
とっくに足を一歩ふみ出している。何を言われても、今さら足を止める気はないけど、
「とはいえ、利益を得る勢力があるなら、当然不利益をこうむる勢力があります。この計画には反対勢力も多く、どちらかといえば私もその立場です。理由は単純でこの国を
「それなら、
「それはできません。ウォルターは誤解してるのかもしれませんが、私は少し
「そう思っているなら、それを変えていく努力をしましょう」
「お断りします。私はそれを短所や欠点だと考えていません」
もうパトリックの協力はあきらめよう。自分一人でもどうにかするしかない。
アシュリーの執事は自身のことを元下級役人だと
「
「聞かせてください」
ワラにもすがる思いで先輩を見つめた。
「簡単なことさ。君が前面に立たなければいいんだ。そのベレスフォード卿って人と、バカ正直に正面からぶつかる必要はない。結局のところ、彼女がつけ込まれた理由は財政的に苦しいからだろ?
それなら、彼女を財政的に支援するだけなら、相手方と
「そうか!」
目のさめるような思いで声を上げたけど、こんな疑問がたちまち頭をもたげた。
「でも、彼女を財政的に支援することができますか?」
「大丈夫。僕らにはここがあるじゃないか」
先輩が頭を人さし指で
「ウォルター。僕らがどれだけ時代を先どりしていると思ってるんだ?」
自信満々に言われると、それなりの説得力を感じたものの、未来の知識が役に立つ例が簡単に思いつかない。ただ、やってみる価値はあると思った。
「なかなか頭のきれそうな方じゃないですか。私も
パトリックが興味津々と先輩を見つめる。この二人は結構気が合うかもしれない。
「私の助手として彼を雇おうと思っているんですが、問題ありませんか?」
僕は先輩へ視線を向けて、その提案を受けようとうなずきで合図を送る。
「こちらからもお願いします」
先輩は軽く頭を下げながら快諾した。
「ついでに、
「
先輩が屋敷に残ることになった。ダイアンの部屋でなければ、現実に戻れないという問題が残っている。もし先輩が時間通りに起きられなかったら、もう一度こっちの世界へ戻ってくると決めた。
僕は一人でベーカリーへ帰り、ダイアンといつもの夜をすごした。明日は日曜日なので早寝する必要はなかったけど、先輩との約束があるので、普段より早めに眠りについた。
◇
現実に戻ると、先輩は先に目をさましていた。ベットに腰かけた先輩がおだやかな表情でこちらを見下ろしいる。
体を起こすと、意味深な笑みをうかべた先輩が、スッと片手を差しだした。僕はその意図をさっし、かたい握手をかわした。
屋根裏部屋でなくとも現実に戻ってこられる。一つの問題は解決したものの、まだ
昨日は
先輩は午後から用事があるということで、昨日と同じ時間に向こうへ行くとだけ約束して、その日は別れた。
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