辺境伯とネイサン
◆
事件後に〈資料室〉へ
〈樹海〉で戦闘が起こる数日前。ネイサンは勤務中に
「ネイサン、今週いっぱいヒマか?」
「ん? レイヴンズヒルなら、仕事をほったらかしてでも行くぞ」
「残念ながら、レイヴンズヒルじゃないんだ」
「山はもう二度と行かないぞ」
『山』とは
「惜しい。今回は山じゃない、森だ」
「山も森も同じだろ。人間が住んでいないところには行かない。男しかいないところにも行かない」
「女ならいるぞ。魔女だけどな」
「何だよ、〈樹海〉かよ。魔女ってシワシワのばあさんなんだろ。パスパス」
辺境伯の出身は〈
長らく
かねてより天才魔導士の名をほしいままにし、『
『転覆』後はジェネラルに一歩およばず、
ところが、彼はそう言われるようになった途端に、ジェネラルからの試合申し込みを断るようになった。敗北を恐れたからではない。
辺境伯という役職に
ネイサンも外世界研究会の一員だった。そのため、辺境伯とは
ただし、辺境伯の馬車に相乗りすれば、タダでレイヴンズヒルへ遊びに行け、おまけに食事や宿泊場所の面倒まで見てくれると、
ネイサンは下級貴族の生まれで、実家が裕福でない。ユニバーシティでは
「いや、外世界研究会の集まりじゃなくて、れっきとした任務だから。序列の高い順から、手のあいている八人をかき集めろって、上から言われたんだよ。何でも相当ヤバい案件らしい」
「何だよそれ。今から序列を下げてもらうよう頼んでくるから待ってろ」
ネイサンは序列十位台、二十位台を行ったり来たりだが、
夜の遊びにかけては右に出る者がいない。女性にモテたいがため必死に序列を上げている。などと陰で言われているが、本人も自認するところなので、特に気にかけていなかった。
「おいおい、ムダなあがきはよせ。もう決まったことなんだ」
「何で八人なんだよ。ヤバいなら八人と言わずに百人くらい連れて行けよ」
「あちらさんのご希望だとさ」
「あちらさんってどちらさんだ?」
「詳しく聞かされていないが、〈樹海〉を待ち合わせ場所に指定するくらいだからな。少なくともまともなやつじゃないな」
二人はこの時点で交渉相手が〈侵入者〉だと確信していた。
「それで、森へ探険に行くのはいつなんだ?」
「さあな。あちらさんの気分次第らしい」
「そんな非常識なやつの誘いなんて断れよ」
◆
交渉役には
イェーツ卿にはアカデミーの研究員が一人同行していた。〈侵入者〉の事情に
イェーツ卿の一行は〈樹海〉の南東に面するウッドランドの街へ向かった。そこは
〈樹海〉の中へ入れるのは十人までと条件をつけられていたが、
準備ができ次第、迎えを寄こすという約束だったが、街で待機していても、もたらされるのは伝言ばかり。交渉の
「
護衛の一人――ダレル・クーパーが言った。〈
事務作業が苦手な辺境伯に代わり、実質的に組織を取りしきっていて、今回のチーム編成も彼が行った。容姿は金髪で中性的な顔立ち。性格はいたっておだやかだ。
「数キロ南に行った街に、ダベンポート卿の屋敷があります。最小限のメンバーだけ残して、そちらへ移しましょうか」
「そうだな。我々は戦争でなく、交渉をしに来たのだからな」
イェーツ卿が賛同した。辺境伯が口をはさんだ。
「イェーツ卿。それはかまわないんですが、一緒に危険な橋を渡るんですから、俺たちにもそろそろ交渉の内容を教えてくれませんか?」
「実は、私も詳しく聞かされていないのだ。何でも、相手方がもったいぶっているらしい。ただ、〈
「人手不足を一挙に解決……?」
こうして、護衛として〈樹海〉へ入る予定の主力メンバーを残し、他のメンバーはウッドランドの街を離れた。
その翌日。これまで伝言しか寄こさなかった相手方の
同行できるのは十人までという条件以外に注文はなく、イェーツ卿の一行はいよいよ〈樹海〉の中へ分け入った。
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