頼もしい仲間(後)

     ◇


「さっきはどんな感じでした?」


「何を話したかはおぼえているんだが、どうしてあんなことを話そうと思ったのかがわからない。口が勝手に動き出して、自分が自分ではないようだった」


 それがパトリックの能力であることに加え、能力についてはなるべく秘密にするよう、その理由も一緒に説明した。


「要はさっきの人をふくめ、僕らは異端児いたんじってわけか」


 この世界の案内といっても、レイヴン城とベーカリーを往復おうふくするだけの生活を送っているので、街の地理には明るくない。レイヴン城へ連れて行っても、先輩は入れてもらえないだろう。


 これからパトリックの世話になりそうだし、とりあえず、ベーカリーとパトリックの屋敷の位置関係を、正確に把握してもらおうと、ベーカリーへUターンすることに決めた。


「年代はどのくらいだと思う?」


「ルネサンスとか、大航海時代あたりですかね」


「だいたいそのぐらいだろうな。鉄砲とか羅針盤らしんばんとか、そういった発明品を調べれば年代をしぼり込めそうだが、魔法にゾンビに特殊能力まで存在する時点で、そんな考察は無意味か」


 先輩は街の人や建物をつぶさに観察しながら言った。


「そういえば、君から能力をプレゼントされたよな」


〈梱包〉パッケージングでしたっけ?」


「どうやって使うんだ? そもそも、どういった能力なんだ?」


「心に念じてみて、説明が目の前に出てきたりしませんか?」


 立ち止まった先輩が空中に目をこらす。


「出た出た」


 ほどなく、先輩が声を上げた。


 能力『〈梱包〉パッケージング

 説明『物体の梱包こんぽうおよび、工程こうていの入力により作業の自動化が可能』

 制限『有機物ゆうきぶつの梱包は不可。所要時間は質量に比例。制限重量は自身の体重』


 自分には先輩の読み上げた文章が見えなかった。あれは他人が見れない仕様らしい。聞くかぎり、便利そうな能力だけど、具体的な使い道は思いうかばなかった。


「使い方が書いてないけど、能力名でもさけぶのか?」


「たぶん、念じるというか、イメージするだけで大丈夫だと思います。少なくとも、僕の〈悪戯〉トリックスターはそうです」


「そうか。とにかく試してみよう」


 先輩は道ばたの小石を拾い上げると、手のひらにそれを置いて、穴のあくほど見つめた。


「できた!」


 数秒後、先輩がおどろきの声を上げる。先輩の手のひらから、小石がこつ然と姿を消していた。


「完全に消えるんですか」


「地面に落としたわけじゃないぞ」


 先輩は手のひらを見せて、何も持っていないことをアピールした後、にぎりコブシをつくって手品さながらにカウントダウンを始める。数え終えると、再び手を開いて、先ほどの小石を出現させた。


 僕が笑いをこらえながら拍手を送ると、つめ寄ってきた先輩に肩をつかまれた。


「君、内心バカにしてるだろ」


「そんなことありません」


「都合のいい荷物持ちが欲しかったのかな?」


「僕が選んだわけじゃありませんよ!」


 先輩の皮肉たっぷりの物言いに、れっきとした事実で対抗する。与えられる能力はランダムだと書かれていた。


「それで、君の能力はどんなのなんだ?」


 重力の無効化や疲労の軽減を例にあげ、〈悪戯〉トリックスターの能力を一から説明した。


「魔法も使えるようになるんです」


 人目をはばかりながら、実際に炎をほとばしらせた。


「さすが主人公の能力はひと味もふた味も違うな」


 無表情の先輩が棒読みのように言った。


「この能力は空間内にいる人間全てに適用されますから、先輩も魔法が使えますよ」


 それを聞くやいなや、先輩の顔に光がさし込む。魔法の使い方をレクチャーすると、先輩が興奮気味に発動を試みた。ほどなく、マッチの火程度のものが数秒間またたいた。


「……タバコの火くらいならつけられそうだな」


「練習すればきっと上手じょうずになりますよ」


 はげましの声をかけたけど、先輩の表情はさえない。


「君が能力を使わないと使えないんだろ? そんなものを練習して何になるんだ」


 もっともな切り返しにぐうの音も出ない。


「それより、君が何のためにこの世界へ来てるのか教えてくれ。僕には君を指導しなければならない責任があるからな」


「『転覆てんぷく巫女みこ』と呼ばれる女性をさがしています。彼女はこの国をつくった人らしくて、現在は行方不明なんです」


「その人をさがしてどうするんだ?」


「そう言われても困るんですけど、彼女に会えればわかるような気がします」


「ぼんやりとした動機だな」


 他人に指摘されると不可解さを痛感する。自身でさえ解明できない感覚。衝動しょうどうというか、潜在せんざい意識に眠るもの……? 出所しゅっしょ不明ふめいの感情をできるかぎり言葉で表現しようとした。


「うまく説明できないんですけど、宿命というか、運命に導かれて……というか」


「君ってそんなことを言うキャラだったか?」


 先輩の言葉で我に返った。おおげさな言いまわしが急に恥ずかしくなり、顔を上げられなくなった。


「何にせよ、君には能力をもらった恩があるからな。しっかり指導していくつもりだから、何でも言ってくれ」


 先輩はひねくれたことばかり言うけど、今に始まったことではない。口先くちさきでいろいろ言っても、何だかんだでやさしい。


 異世界において、頼もしい仲間ができた。

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