試合(後)
◆
対象の巨大さから、今回はピンポイントという
ぶっつけ本番という不安と、『
デビッドに自制心がわずかに働いた。降参をうながすような、はたまた願うような目つきでにらみをきかせる。
しかし、すでにウォルターは腹をくくった。来るなら来いと言わんばかりに、悠然とかまえ続け、それがデビッドの決断を後押しした。
「後悔するなよ!」
最後通告の言葉と共に、
「ウォルター!」
スコットのかけ声がひびいた。背後から見たウォルターは、棒立ちのまま意識を失ったかのようだった。
中心点さえ定かでなく、
その途端、『豪炎』は不自然なかたちで消失を始めた。難をのがれ、
目の前の光景が信じられなかったのは、デビッドだけではない。不可解な現象を目の当たりにし、観衆もざわつき始めた。クレアもその一人。
「何、今の……?」
観衆の反応を確認するまでもない。自分のしたことながら不自然と感じたウォルターは、二度は使えないと覚悟した。
しかし、
それの再出現に、ウォルターは
相手に接近すれば、違和感を
当然ながら、その意図をデビッドは読み取れない。しばらく身をすくませたが、襲い来る恐怖をふりはらうように、『豪炎』を解き放った。
相手の動きに合わせるように、ウォルターは右手をかまえ、魔法を発動するそぶりを見せた。それは、少しでも不自然さをごまかすための演出だ。
「どういうことだ……?」
デビッドの顔から
デビッドは新たな魔法の発動を試みたが、周囲をただよっているはずのエーテルが、その求めに応じない。
「どうしてだ……、どうして発動しない!」
デビッドの悲痛なさけびが中庭にひびいた。辺りは不気味な静寂につつまれ、カツ、カツとウォルターの足音だけが反響する。その一歩ごとに、デビッドの恐怖心がはね上がっていく。
「……どうなってるの?」
異様な光景を前にして、クレアも疑問を口にした。ウォルターに魔法を発動している様子はない。それにも関わらず、デビッドのそれだけが完全にシャットアウトされていた。
「大技を連発したから、エーテルを食いつぶしたのでは?」
「……そこまでの大技だった?」
同僚の返事に、クレアは
デビッドと
(マズい。少しでも気をぬいたら火だるまだ)
接近によって、デビッドの攻撃手段を奪うことに成功した。しかし、両手足をしばられたのは自身も同様だ。ウォルターは特段の策もないまま、相手の少し手前で立ち止まった。
(能力の持続可能時間は三十分。それまでに相手が降参しなかったらどうする。試合はふりだしに戻るけど、このまま何食わぬ顔でバックするしかないか)
現状はおたがいに手も足も出ない状態。無限ループが始まりそうな予感に、ウォルターは
ところが、敵前で悠々と考え込むウォルターの姿は、デビッドを絶望の
(人間の感覚をあやつれるなら、ただちに降参したくなるほど弱気になる、なんていうのはどうだろう。そうなると……、
現実
「うわああああ!」
デビッドの中で何かが切れ、狂気に満ちたさけび声を上げた。
その矢先、ウォルターの視界が大きくゆさぶられる。パニックにおちいったデビッドが、衝動的に右フックをくり出し、強烈なそれがウォルターの頬にさく裂したのだ。
ウォルターは一時的な失神に追い込まれ、今にも倒れそうになった。それに対し、デビッドは追撃の手をゆるめず、おおいかぶさるように押し倒す。
「誰か止めろ!」
回廊から大声が上がり、近くで見守っていた観衆数名がいっせいに飛びだした。馬乗りになったデビッドがコブシを振り上げた瞬間、観衆の一人が彼を
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