侵入者の先兵
◆
後ろにヒューゴと使用人の二人を従え、デリック・ソーンは本邸の廊下を進んでいた。
ジェームズ・ウィンターの死亡について追及を受けた彼は、こんな話を向けてヒューゴを会場から連れだした。
「私は
「それは調べがついている。事実、あんたがレイヴンズヒルを離れた後も、ジェームズは生きていた。ただ、直接手をくだす必要はないからな」
「……私が命令をくだした証拠があると?」
「それはどうかな……」
ヒューゴは返事をはぐらかしたが、実はその証拠をつかんでいない。とはいえ、目的はデリックを捕まえて罪に問うことではないため、それはどうでもいいと考えていた。
探りを入れることで、あせりを感じたデリックが
「仕方がない、この話をしよう。実はジェームズと〈侵入者〉とのつながりを示す、決定的な証拠をつかんでいる。先日、そのことで彼を問いつめたのだが、今思えば、それによって彼らが仲間割れを起こしたのかもしれない」
「その証拠とやらは見せてもらえるのか?」
「ああ。こんな事もあろうかと、大切に保管しておいた。
この話は
ヒューゴはデリックを会場にとどめ置く役目をになっていたが、ここまで告白した相手を引き止める
デリック自身はこの国で生まれ育った
〈侵入者〉を『トランスポーターの命を受けて〈外の世界〉より送り込まれた存在』と定義するならば、彼とその支援者こそが
この数年間、彼は〈侵入者〉の手足となり、この国を静かに
ところが、〈外の世界〉において
それに反発したあげく、
殺害は想定外の出来事であり、これほど早く自身に捜査の手がおよぶことも予想外だった。
だが、デリックはそれを
新たな計画のサポート役として
デリックが休憩室の前で立ち止まり、部屋の中をのぞき込む。ここで待っているはずの女はいなかった。ただ、姿を消す能力を持つと聞いていたので、しばらくその場にとどまった。
その時、コンコンと壁をたたく音がした。音のした方向へ目を向けると、食堂の戸口から女の指がのぞいている。そこまで行くと、
後ろにいる男がターゲットだとアイコンタクトで伝えると、女はフッと姿を消した。ヒューゴを振り返った彼が、食堂を手で差し示しながら言った。
「証拠は離れの部屋に置いてある。今から取ってくるから、ここで待っていてくれないか?」
ヒューゴは食堂の中へひとしきり警戒の目をそそいでから、「ああ」と言って足をふみ入れた。
「少し時間がかかるかもしれない。彼のことを頼むよ」
「承知いたしました」
そう使用人に言い置いて、デリックは離れへ向かった。使用人を連れて来たのは、殺害現場を目撃させることで、自身に疑惑の目が向けられないようにするためだ。それは逃走して身を隠すだけの時間をかせげれば十分だった。
ヒューゴの殺害は
デリックが言い渡された命令は、
デリックは今の地位を失うことになるが、もう後には引けなかった。心にふんぎりをつけたそれよりも、女のことが気になった。
ジェームズを殺害したのはデリックだ。女に相談すると、こんな
「あなたはサウスポートに引っ込んでいなさい。死体は私のほうで処理しておくわ」
女に死体の
「確かに、水路でゾンビが現れた日から、見かけなくなりました。様子はおかしかったですけど、その前日までは元気そうでしたよ」
この話を聞いたデリックはとまどった。彼がジェームズを殺害したのはゾンビが現れる一週間も前だ。そして、その時点で相手はゾンビ化などしていなかった。
部下が目撃したジェームズは何者なのか。なぜゾンビ化したのか。気になることは山ほどあったが、あまりに恐ろしくて、そのカラクリについて女に尋ねることはなかった。
さっきの様子にしてもそうだ。まるで人を殺すのを心待ちにしていたかのようで、こんな連中に協力していたのかと、デリックは今さらながらゾッとする思いだった。
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