サイコキネシス(後)
◇
「そっか。普通の人間じゃなかったわね」
空中飛行で
女にあせりの色は見られない。とはいえ、逃げ回っているのだから、言うほど戦闘に自信はないようだ。いつでも瞬間移動で逃げきれるということか。
それほど遠くに行かなかったのだから、それに距離の制限があるのは確実。せいぜい、自身の目が届く範囲だろう。
「君の能力は何て言うの? 裏切り者でも出たのかと勘違いしちゃったけど、空を飛んでいたから
そう聞かれて、正直に答えるバカはいない。
「お前はトランスポーターの
「あなたはどうなの? あなたはトランスポーターの仲間じゃないの?」
「そんなわけないだろ」
「だったら、何で私が見えているの?」
「……どういう意味だ?」
「だって私、今〈
やはり、能力で姿を消していたのか。自分に見えているということは、魔法を無効化した時のように、
「それとも――エックスオアーだったりする?」
「エックスオアー……?」
「ああ、ごめんなさい。
よりにもよって、
「僕が女に見えるか?」
「そうね。僕はどう見ても女じゃないわね」
女がケタケタと笑った。人をバカにする天才か。冷静になれ。相手の挑発に乗っちゃダメだ。
それにしても、この女は本当に人間なのだろうか。人のかたちをした『何か』――
突然、女がナイフを取りだした。
「ナイフいる?」
「いらない」
それを僕の前にほうり投げると、後ろ手に別のナイフを取りだした。
「そこに置いておくから、好きに使って。私はもう一本持っているから」
「いらないって言ってるだろ」
敵から渡された武器なんて気味が悪くて使う気になれない。足もとのナイフには目もくれず、女を見すえ続けた。
いや、待てよ。女には
「使ってくれるんだ。じゃあ、投げ合いっこしようか」
まるでおもちゃで遊ぶかのように言った。頭が狂ってる。こっちの調子も狂う。さっさと、魔法を使ってナイフをはるか
「私から投げるわね」
そう言った女が、ナイフをかまえて投げつけてきた。おぞましい
手首だけを使って軽く投げたにも関わらず、とてつもないスピードだった。
右手をかまえ、魔法で迎え撃とうとした矢先、ナイフは突如進行方向を変えた。大きくカーブしたと思ったら、S字をえがくように側面からつっ込んできた。
せまり来るナイフをのけぞるようによけると、それは目と鼻の先をスレスレで通過した。たまらず背中から倒れ込み、屋根の上に転倒した。
ひと安心したのもつかの間、女が
あお向けの自分目がけて、目に見えない力でナイフが振り下ろされる。何という力だ。直接手でにぎっているとしか思えない。必死の抵抗で持ちこたえるのがやっと。遠隔操作でここまでできるのか。
徐々に押し込まれ、ナイフの
ふと、
幸いにも、いつまでたってもナイフは飛んでこなかった。けれど、本人が
望みは届いた。でも、本人が使えるなら元も子もない。もう切っ先が鼻先をかすめんばかりにせまっている。先にこっちをどうにかしなければ。
もはや、重力をなくすしか逃げ道はない。けれど、この状況でそれを行えば、ナイフが顔に突きささりかねない。
かといって、このままではどっちにしたってさされる。イチかバチか
思惑通りにいった。
しかも、有効範囲にいた相手をうまく巻き込めた。余裕の笑みをうかべていた女が、空中へ投げだされたことで、あわてふためいている。
無重力空間ではこちらに
魔法で一撃を加えようと考えるも、なかなかねらいが定まらない。回転が弱まるのを
見事にクリーンヒットした。女がクルクルと回転しながら落下していく。ところが、地面に衝突する寸前でその姿が消えた。
自分も反動でだいぶ飛ばされていたので、慎重に屋根まで戻った。すると、女は先に戻っていた。あの状況からでも、自由に瞬間移動できるのか。
おや? あそこは女が最初に立っていた場所だ。同じところへ戻ったということは、移動場所に制限があるのか。
「エリア全体に適用される能力ってわけね」
女の顔から笑みが消えた。相手のペースには乗らない。一メートル大の『
瞬時に姿が消えた。すばやく辺りに視線をめぐらすも、なかなか見つからない。
「やっとわかったわ。あなた、伝説のトリックスターね」
すぐ後ろで声が上がった。とっさに身をひるがえし、飛びすさって距離を取る。予備動作は見られなかった。いつでも思いえがいた場所に移動できるのか。
――ん? 伝説のトリックスター?
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