伝承の矛盾(前)
◇
ジェネラルの部隊が岩の巨人と戦闘を始めてから、僕は建物の屋根をつたいながら、
もちろん、戦闘に
ただ、自分はあまり役立てそうにない。重力を
けれど、吹き飛ばされるのは自身も同じ。むしろ、能力の有効範囲から永遠にはずれない自分のほうが、被害は大きくなる。もし背後に敵や壁が存在すれば
なので、自身にしか果たせない役目に集中すると決めた。能力を
たまに
すでに五体の岩の巨人がしとめられた。仲間の部隊は敵を
怖いくらいに順調で、逆に
もう一度、大門の頂上から外の様子を見渡した。さっきと状況に変化はない。ここに来ていないはずがないのに見つからない。やはりおかしい。
◇
市街に目を走らせながら、レイヴン城へ向かった。市街にも変わった様子は見られない。今度は正門の頂上から城内を見渡したけど、数人の魔導士が渡り廊下を行きかっているだけだ。
『スージー。ウォルターだけど、まだ敵は見つかっていない』
『わかりました』
『コートニーから連絡は?』
『変わりなしという連絡なら、さっきありましたよ』
『レイヴン城のほうはどう?』
『この部屋から見える範囲は平和そのものです。あと、
スージーはパトリックやロイと一緒に宮殿へ行き、
念のため、自分の足で確認した。しかし、
中庭に面した窓から、不安げに顔をのぞかせる人がいる一方、中庭で日なたぼっこしたり、走り回る子供もいる。城壁の外で戦闘が行われているとは思えないほど、のどかな雰囲気だ。
(何かあれば、スージーから連絡があるか)
結局、大門方面へ戻ることにした。
◇
中央地区の大通りは
ふと足を止め、はるか遠くまで見通せる大通りへ目を移した。この非常事態に外を
しかも、服装的に魔導士でも役人でもなく、格好は街の人たちに近い。めずらしい服装ではないけど、目を引くほど
男は落ち着いた足どりで、ものめずらしげに辺りを見回している。ブラブラと歩く様子は、まるで散歩をするかのようで、観光客のようにも見えた。
不審に思わないわけがない。屋根から下りて、
すると、男のほうは二人組に視線を送ったけど、相手のほうはわずかな関心もしめすことなく行き違った。
心臓が
路地から歩み出て、さりげなく男のほうへ向かう。そして、存在に気づいていないフリをしながら、すれ違いざまに横目で見た。
同年代で
すると、大通りから男の姿が消えていた。キョロキョロと見失った相手をさがしていると、
「僕の姿が見えているってことは、君がトリックスターかい?」
そばの建物をあおぎ見ると、男が煙突の上に
「ヒプノティストじゃないだろ? 彼は身長がかなり低いと聞いているし」
「お前が敵の能力者か」
「そうだ。エドワードという名前もあるけど、君らにはトランスポーターと名乗ったほうがわかりやすいかな」
「お前が……」
こいつがあのトランスポーター。何か、不思議な感覚だ。拍子ぬけというか、体から力がぬけていく。想像していた以上に普通で、これまでの敵とまるで違う。
「そう、あせらないでくれ。僕は君と戦いに来たわけじゃない」
確かに、さっきの街を歩いている様子にしても、相手からは敵意も戦意も感じない。今もおだやかな表情で、どこか観察するようなまなざしを向けている。
「敵としてではなく、君と手を結ぶためにここへ来た。この無益な戦いに終止符を打つためにね。とにかく、話を聞いてくれないかな?」
その言葉を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます