中央広場事件(中)
◆
パトリックは
まっ先に目に飛び込んだのは、人間の
一メートル近い
ここは
部屋の中は広くない。自身の屋敷の居間よりもせまかった。ジェネラルを始めとした数名が、宝珠の周辺を調べていたが、扉の前の魔導士と同様、全員が落ち着きをはらっている。
言い伝えによれば、
今も、この国に魔法をかけ続けているのかもしれない。そんなことを考えながら、パトリックは取りつかれたように見入った。
ふと異状に気づいた。
ジェネラルらは台座から離れた場所で宝珠をながめている。しかし、台座に上がって堂々とそれに手を当てている男がいた。
宝珠から目を移すと――いるはずのない男がそこにいた。ユニバーシティの制服を着用していたため、人の
パトリックは始め、幻覚を疑った。いつか彼が自分の前にも現れるかもしれない。その恐怖心が自分にこの光景を見せているのだと考えた。
しかし、男はパトリックの視線に気づくと、表情をけわしくした。瞬時に
ほどなく、台座を下りた男がジェネラルの脇を平然と通りすぎ、ゆっくりと歩み寄ってきた。ジェネラルは一瞬何かに気づいた様子を見せたが、すぐに前を向き直った。
「お前にだけは俺が見えているみたいだな」
目の前で立ち止まった男が言った。容姿だけではない。
パトリックは目を見開いたまま、言葉を失った。すると、辺境伯は張りつめた表情をやわらげ、ソっと耳元に顔を寄せてきた。
「明日の
意識が遠のくような
◆
約束の時間は正午。その一時間前、パトリックは誰にも行き先を告げることなく、一人で屋敷を出た。
昨日、鎮座の間で辺境伯と出会ったことさえ、一人でかかえ込んだ。自身にだけ姿が見えていたなど、言いだせるわけもなかった。
彼の言うプレゼントとは何か。自分もチェンバレン卿のように、見せしめとして殺害されるのではないか。夢うつつで大通りを進み、気づいた時には、中央広場の目の前まで来ていた。
◆
「お前が噂の『小さな
「はい。その名を
パトリックはアカデミー
「おもしろいやつがいると聞いて来た。そこで、お前に頼みがある」
「何でしょうか」
「俺は〈外の世界〉へ行きたい。お前の
「はあ……。現状ではどうにもなりませんが、個人的にも興味があります。次に会う時までに調べておきましょうか?」
「本当か!」
パトリックが
「本名はなんて言うんだ。その
「パトリックです」
「パトリックか……。何か、セドリックとひびきが似ていてまぎらわしいな。よし、小さいからリトルと呼ぶことにしよう。かまわないか?」
「かまいません」
セドリックはジェネラルの名だ。この頃の辺境伯は、ジェネラルになる夢をまだあきらめていなかった。
『いずれ奪う予定だから、ジェネラルとは呼ばないからな』
過去には直接本人へ宣言したこともあった。
その後、辺境伯はレイヴンズヒルを訪れるたびに、パトリックのもとへ通った。やがて、パトリックに会うために、レイヴンズヒルへ通うようになった。そして、二人は共同で『
パトリックは元々
◆
辺境伯はジェネラルと対等に渡り合える唯一の魔導士だった。けれど、試合自体は連戦連敗で、一度も勝ち星をあげられなかった。
しかし、パトリックとのなにげないやり取りによって、彼は転換点を迎えた。
「昨日の対抗戦、リトルも見てただろ? どうしたらジェネラルに勝てると思う?」
「遠慮なく言わせてもらいますと、上をめざしている他の方や、魔法が全く使えない私にとって、
「そういうのじゃなくて、具体的なアドバイスが欲しいんだ。何かコツとか、俺に足りないものとかさ」
「私は魔法に関してはからっきしですから。それに属性同士の相性もありますし、魔法の試合が、必ずしも魔導士としての
「もっともな話だが、それは
「〈外の世界〉へ行くのなら、あまり試合という形式にとらわれないほうがいいんじゃないですか。〈外の世界〉の敵は、フィールド内でルールを守って戦ってくれませんから」
「……そうか。そうだな、目の
その日、辺境伯はジェネラルをめざすことをやめた。そして、常に〈外の世界〉の敵――主に
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