転覆の日
トランスポーター(前)
◆
トランスポーターが〈転覆の国〉の地をふんだのは、この日が初めてだった。
悔しかった――それもある。それだけ『盟約』への参加は
ひとり
彼が〈侵入者〉をこの国へ送り始めたのは十数年も昔のことだ。〈侵入者〉から報告を受けるたび、様々な想像をふくらませた。
いつしか、胸の中におけるこの国の姿は、
また、この国へ行くだけならともかく、〈外の世界〉へ戻るには、約束の
『盟約』を結んでいる仲間といえど、自身の
(向こうとあまり変わらないな)
彼にはエドワードという名前もあったが、その名で呼ぶのは『最初の五人』であるローメーカーとエクスチェンジャーの二人のみ。その二人も、公的な場では彼をトランスポーターと呼ぶ。
年齢はウォルターとほぼ変わらない。軽く目にかかった髪に、伏し目がちな表情。彼の性格は、良く言えば
この性格が原因で、ローメーカーとは昔から折り合いが悪かった。
◆
ローメーカーの性格を一言で言い表すならば命知らず。かつて反乱軍のリーダーとして、ドワーフ族と共に
「敵の
「友としての忠告だ。死に急ぐような、
「お前の気持ちはわかった。ただ、もうドワーフたちと約束したんだ。
「手を貸してもいい。ただ、その場合、ここでお別れだ。君に協力するのはこれが最後になるけど、それでもかまわないか?」
「……ああ。残念だけど仕方がない。それでも俺はやり
幸いにも、ローメーカーの奇襲作戦は成功に終わった。人狼族による
(彼と一緒にいると
そう思ったトランスポーターは、ローメーカーとたもとを分かち、〈転覆の国〉へ〈侵入者〉を送り続ける活動を一人で始めることになる。
エクスチェンジャー――
◆
「どうだ、トランスポーター。この国の印象は?」
かたわらのインビジブル――
「普通かな。そっちは? この国に帰ってきたのは
「この国の
彼らがいるのは〈樹海〉にほど近い
眼下に
(これが噂のゴーレムか。こんな岩のかたまりにしか見えない
トランスポーターは顔をしかめて、
「こいつらは僕たちを襲ったりしないのか?」
「現状、その心配はございませんが、戦闘が始まってからはお約束できません。他の人間とお
「活動できる時間に限界があるそうだな」
「はい。ジッとしていれば別ですが、我々がエサを与えなければ、三、四日で活動を停止します。どうも、この国は『
「そんなに短いのか」
「なので、ここからレイヴンズヒルまで丸二日は見込まないといけませんから、到着の当日、遅くとも翌日までに決着をつけていただかなければなりません」
生物でないゴーレムには
そっぽを向いたトランスポーターは、あきれながら鼻で笑った。そこまで活動時間の短いものが、作戦の
「気が早いですが、作戦と役割分担について再確認させてください」
「俺がジェネラルとやって、『
「その間、僕はトリックスターの相手をしよう」
辺境伯とは
「わかりました。我々はお二方のご
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます