クレアの夢(後)
◇
ここで
「自分には周囲の重力をあやつれる力があるんだ。屋敷を飛び越えられたのはそれのおかげ。正確に言えば、その能力と風の魔法を
「……重力って?」
クレアが眉をひそめる。まだ重力という
「地面に引き寄せられる力のこと。その力を弱めると、体が
「ふーん。そうすれば、風の魔法で空を飛べるってことね」
納得してくれたけど、これで追及が終わるとは思えない。
「その能力を隠していたのはどうして?」
「
クレアが顔をしかめて、うなるような声を上げた。どうやら、違う何か――〈侵入者〉であることを期待していたようだ。
「わからない」
クレアが
「そんなスゴい力を持っているのに、まわりに隠し続けるなんておかしい。私だったら、誰に何と言われようがみんなにふれ回るわ。何か、やましいことがあるんじゃないの?」
「別にやましいことなんてないよ」
「だったら、こうしない。秘密にしてくれたら、〈外の世界〉へ行くためのことなら、何でも協力するよ」
結局のところ、クレアの関心は〈外の世界〉へ向いている。自分自身も興味がないわけじゃないし、
「……何でも?」
そう聞き返したクレアが、お菓子をもらった子供のように瞳を輝かせる。
「何でも」
「わかったわ。それで手を打ちましょう」
クレアが
「ねえ、こんな言葉知ってる? あらゆる流れは
大滝という言葉自体初めて耳にした。首を横にふると、クレアが北の方角を指さした。
「ここからだと見えないけど、向こうに見える大きな山の先、つまり、この国の果てにおっきな滝があるんだけど、水が
それは〈外の世界〉の地下水が流れ出ているってのが
元々〈転覆の国〉と〈外の世界〉は
にわかに信じがたい話だけど、二つの国が
「大滝のそばにたどり着くには、いくつも山を越えないといけないから、簡単に立ち寄れないんだけどね、一度だけ行ったことがあるの。真下から見上げる大滝は、本当にスゴかったわ」
クレアは昔をなつかしみながら、喜びと悲しみの入りまじった表情を見せる。
「あの頃は楽しかったな。
クレアは一人一人の名前をかみしめるように口にした。
話は見えないけど、聞きおぼえのある名前がならんでいる。リトルとはパトリックのことだ。前にクレアはその名で呼んでいた。ヒューゴはパトリックと
以前、ヒューゴから『パトリックが彼を売りわたした』と聞いた。真相はヤブの中だけど、因縁の関係はこの頃に
ネイサンという名も気になった。わが〈資料室〉のチーフの名だ。冒険的なことが最も似合わない人だから、別人だろうか。今の姿からは想像もつかない。
「夢って?」
「もちろん、〈外の世界〉へ行くことよ」
クレアの思い出話は胸にせまるものがあった。巫女がこの国を『
「ねえ、空を飛べるんだったら、あの大滝も飛び越えられないかな?」
えっ、そこまで飛んでいくつもりなの? あの山の頂上より高いぐらいなんだよね。
まあ、できなくもなさそうだけど、たとえそこまで行けても、滝の流れをさかのぼるのは自殺行為ではないだろうか。
「くわしくはレイヴンズヒルに戻ってから、ゆっくりと話し合いましょ」
クレアは鼻歌まじりに屋上を後にした。傷が浅くてすんだと前向きに考えよう。さて、パトリックにはどう報告しようか。
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