ケイトの過去と今
◆
戦闘が始まりを
臨時の評議会は
せわしない様子で廊下に現れた役人に、パトリックはもの言いたげに視線を送った。先ほどは「まだ全員そろっていません」とだけ告げられた。
「まだクラーク卿が到着されていません。東地区のほうで、避難先をめぐって住民同士のもめ事が起こっているようで。開会はもう少し遅れそうです」
「……全員そろうことが、それほど重要なことでしょうか」
パトリックは顔をそらしてボソッと言った。
「申しわけありません。評議会の
今は国家の
そんな時、控えの間――議員や
パトリックはバンクス卿――ケイトの父親と
バンクス卿は〈
ユニバーシティのメンバーは大半が戦場に出ている。ひと握りの魔導士が〈
『昔は優秀な魔導士だったんだ』
以前、バンクス卿がグチっぽくもらした話が、ふとパトリックの頭によみがえった。
◆
この国が『
その認識は『転覆』後も同様だったが、いつの間にか、ヒドくあやふやなものに変化していた。なお悪いことに、ケイトは記憶と一緒に、魔法の使い方を忘れてしまった。
高い地位にあった彼女の評価は、またたく間に
彼女は後ろ指をさされながら役職を追われ、
他人とのコミュニケーションが下手で、以前から
もはや、魔法の実力はユニバーシティのレベルに達していなかったが、彼女はそれに
「アカデミーに活躍の場はないかと思いまして」
パトリックは一度、ケイト本人から相談を受けたことがあった。
「実はゾンビがちょっと苦手で……」
彼女はそんな理由をあげたが、話はウヤムヤに終わった。
◆
今日、ケイトをここへ連れて来たのも父親のバンクス卿だ。
『ゾンビにすらおびえるお前が、岩の巨人と戦えるわけがない。いいから、この部屋でおとなしくしていろ。戦場に出ても足手まといになるだけだ。誰もお前を非難したりしない』
『だったら、ロクに魔法が使えなくなった私を、なぜユニバーシティに入れたんですか? どうして辞めたいと言った時に、辞めさせてくれなかったんですか? お父さんが家の
自分の娘を守りたい、戦場へ送りだしたくない。そんな父親の思いを、ケイトは理解していた。
しかし、父親はユニバーシティ加盟を強要した
『この非常時にくだらないことを』
『この部屋へ閉じ込めようとしているのもそうです。私が戦いもせず城にこもっていたら、バンクス家の
バンクス卿は怒りにまかせて、ケイトを室内に向けて突き飛ばした。
『ツベコベ言わずに、この部屋にいろ。いいな、この部屋を絶対に出るんじゃないぞ!』
◆
ケイトはここにいる
「あなたはどうしたいのですか?」
「もちろん、戦うのは怖いです。でも、みんな戦っているんです。もし他のみんなもチーフのように死んでしまったら……。そう考えたら、ここで何もせずにジッとしていることが怖くてしょうがないんです」
戦死したネイサンの思いを受けついだウォルターやスコットだけではない。副室長のマリオンや多くの友達、知り合いが戦場に出ている。
それなのに、自分だけが安全地帯でヌクヌクとしている。それが何より許せなかった。
「たとえ生き残れたとしても、私、きっと後悔します。おかしいですよね。こんな時でも自分のことばかり考えてる。そんな自分も嫌になります」
「身もフタもないことを言いますが、あなたの力があるなしでは
何も言い返せないことに、ケイトはくやしさをおぼえた。
「私もあなたと同じ
パトリックが妙なことを話しだしたので、ケイトはキョトンとした顔つきをした。
「私は五年前の事件に深く
「
先ほどの役人が廊下の先から呼びかけてきた。
「私もこれから戦ってきます。後悔しないために、今回は信念をつらぬくつもりです。なので、あなたの行動をとどめるつもりは
予想外の言葉を投げかけられ、ケイトは返す言葉が見つからない。
「岩の巨人が怖くなくなる『
「いえ……、大丈夫です」
ケイトは微笑をうかべ、軽く頭を下げてから、廊下を走り去った。それを見送ったパトリックが、
パトリックは
パトリックの戦い――それは『巫女』という
いや、異をとなえるといった生やさしいものでなく、要求をつきつけると言ったほうが正しいかもしれない。
パトリックは
要求を通すためには
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