ネクロ追跡
◆
ネクロはウォルターの追跡に気づいていた。スプーと中央広場で落ち合う約束をかわしていたが、遠回りせざるを得なかった。
人影のまばらな
ただ、中央広場にある巨大な記念碑は、
ネクロには
現在ネクロは、
実際、目撃情報を頼りに追跡していたウォルターは、しだいに
とはいえ、ウォルターの勘がするどければ、気づかれる可能性はある。また、通行人と一緒に目撃された場合は、その事実が明るみになってしまう。
中央広場まであと少しというところで、ネクロはウォルターと
ネクロは
さらに、ずっと『扮装』した状態だったため、ネクロは身なりに気を配っていない。衣服はおろか体までうす汚く、見るにたえない
フードを深くかぶったまま、あやしまれないよう、あえてウォルターのそばを通りすぎた。
「止まれ」
しかし、ネクロの見込みははずれ、ウォルターに呼び止められた。内心あせりながらも、聞こえなかったフリをして、通りすぎようとした。
けれど、後ろからついてくる足音はやまなかった。しまいには
ネクロは逃げ道を絶たれ、観念して足を止めた。そして、振り返ることなく言った。
「……どうして気づいた?」
「におったんだ」
これは
「あのゾンビからも似たようなニオイがした」
「
ネクロは身じろぎ一つせず、だまってその場にたたずんだ。『つむじ風』に巻き上げられた小石が、パラパラと
「私は戦ってもいい。しかし、君はどうする?」
おもむろにフードを脱ぎながら、ネクロが振り返った。懐かしい姿を見て、ウォルターはかたまった。
「
くぼんだ目にやせこけた
「つまり、この姿こそが私の本来の姿ということだ。君はこの体を傷つけられるかい? まだ、生きているかもしれないよ?」
〈
その中には、これがトレイシーの本性だという信じたくないものもあった。
しかし、トレイシーは先日
現実をなかなか受け入れられず、ウォルターの注意が
横合いから『つむじ風』の
「乗れ! ネクロ!」
かけつけたスプーが
ウォルターは一時的な呼吸困難におちいる程度で済んだ。だが、大きくせき込んでしまい、息を整えるのに時間を要した。顔を上げた時にはもう、馬の姿がだいぶ小さくなっていた。
「残念! こいつはもう手遅れだよ!」
遠ざかっていくネクロが、せせら笑うように捨てゼリフをはいた。
◆
スプーはレイヴンズヒルの玄関口たる
ネクロは馬の背に腹ばいとなって、かろうじてしがみついている状態。片足はあぶみにかかっていたが、もう片方の足は投げだされた状態で、地面や塀に何度も打ちつけられていた。
「片足を引きずられているのだが?」
「少しは
見通しの悪い通りを選んで進み、何事もなく大門へたどり着いた。スプーは門に
「〈侵入者〉が市街に侵入した。ただちに、内側の門を下ろせとの命令だ」
突然のことで守衛は動転した。
「早くしろ!」
スプーは
ガラガラと鎖と
ネクロは痛々しいほどに負傷し、片足を引きずっていた。それに肩を貸したスプーは、もう片方の手で馬を引き、格子門をくぐりぬけた。
ふとスプーがレイヴン城へ一直線にのびる中央通りを振り向く。前に進みながら、警戒の目を送り続けると、半分ほど格子門が下りたところで、ウォルターが横道から中央通りにおどり出てきた。
大門の異変を数百メートル先から認めると、ウォルターは全速力でかけだした。スプーはヒヤリとする思いで見守ったが、あと十数メートルまで接近した地点で格子門が完全に下りきり、胸をなで下ろした。
ウォルターが飛びかかるように格子門にはりついた。うす暗い通路に目をこらすと、二人の顔が暗闇にうかんだ。
ネクロと共にいるのがギルだったことに、ウォルターはおどろきを隠せなかった。行き場のない怒りがこみ上げ、門をつかむ手に力がこめられる。
「さよならだ」
「グッバイ、トリックスター」
スプーは勝ち誇るように頬をゆるませ、ネクロはからかうように言った。
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