第48話 揺らぐ世界
「君に本来の力が戻って良かったよ」
燐火はふさふさとした尻尾を左右に揺らしつつ上機嫌で話す。
「あぁ……神守の……」
あまり意識をしていなかったが、確かに、力は高まっている。霊力とは別の、何かが。
「しかし、案外、神とは物好きな存在ですね。下等生物である人間の僕に使役されたいとは。今回はどのようなお
淡々と聞けば、燐火はとびきりの笑顔で
「そうだねぇ。調子に乗った人類の阿鼻叫喚が見たい。神に仕える人間の指示で、多くの神が動き始め、あっという間に世界を灰に。そんな遊びがしたい。君も気分が良くなるはずさ」
と答えた。
「僕の気分がどうなるかは別として、それを神々が望むのなら、力になりましょう」
「真面目だねぇ。まぁ、楽しんでくれよ。君の心を殺した奴らが散りゆく様は、さぞかし滑稽だろうさ!」
心を殺された覚えはないが、燐火が楽しそうで良かった。位の高い神に不満を抱かせてはいけない。そのために、僕がいるのだから。
「それで、まず何をしましょうか」
聞けば、彼は僕の携帯電話を使いこなし、地図と写真を開いた。そして、ニィッと口角を高く釣り上げると
「神楽家が良い。神楽家を中心に、円状に我々神の陣地を広げていこう。自分たちの縄張りを侵食される恐怖に泣き喚くが良いさ」
僕に抱きつきながら話した。
「神楽家の殲滅から、ですか」
「デザートは先に食べる派なんだよね〜」
「構いませんが、なかなか手強いですよ」
「大丈夫だよ。君は、指示を出すだけで良い。この女は僕が殺す。それとも、こんな人間の小娘ごときに、僕が負けるって言うの?」
「まさか。僕でも勝てる相手です。あなたなら、
神楽家は慰霊に特化した一族。神からの攻撃を受ければ、為す術はない。それほどまでに神を信頼していた。言ってしまえば、神の姿を知らないくせに崇拝する、一般人の信者と、何一つ変わらない存在。彼らに燐火が負けるはずないと、本気で思う。だが、
「……ただ、その女性がどこか気持ち悪くて。只者ではありません。見ているだけで僕は内臓を煮られるような気分になります」
彼のことを同類だと思っているわけではない。無論、燐火の方が上位にいる。しかし、この胸にある気持ち悪さは、何か良くないものを暗示しているかのようで不安だった。
「君にとっては、そうだろうね。そう作られているから」
さも当然のことを言うように、燐火は軽く話を流す。
「君はアレと対になる存在。苦しめられるのは当然さ。でも安心してよ。僕が君を守るから」
燐火の顔が、より一層、僕に近づく。彼は僕の手を取ると、あどけない笑顔を見せた。僕は、彼の胸に顔を埋めると、そっと目を閉じ、思考を止める。彼の言う通りにしていれば、間違いなんて、ないはずだから。
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