第80話 余談【side:光司】
(お前、そういうところだぞ……)
口には出さなかったが去り行く弟に思う。その笑顔とそのセリフが、厄介な神を寄せ付けるのだとそろそろ気づいて欲しい。お人好しにも程がある。ちゃんとその前に頭を下げたのだから黙って帰れば良いものを。
「そういえば、黄泉、お前が神守を縛った理由って神守が好きだったからだろ。優司は男だが良いのか?」
蓬莱の素朴な疑問が黄泉にかけられる。彼は
「全然? なんなら、優司は過去最高傑作だと思っているよ。可愛い顔しているし、あの子にそっくり。叶うなら結婚したいくらいだよね。神楽から奪い取ってでも」
「お前……」
「やらないよ。信じられちゃったし、見守ってくれって言われたし。優司の泣き顔も可愛いと思うけど、やっぱり笑った顔が一番だからさ」
愁を帯びた彼の顔は、悔しいが、神に相応しい美しさを感じさせられた。
「あぁ、でも神楽が優司を泣かせた時は、遠慮なく奪いに行こうかな! 次こそ結婚!!」
「ないと思うがな」
「というか、男同士で結婚できるんですか?」
「できるよ」
「生産性はないけどな」
「できるよ?」
男同士で結婚できることにも確かに驚いたが、それより「生産性がない」からの「できるよ」に違和感と悪寒がする。
「できるよ、僕。優司の体を女体にして、僕の子を孕……」
「うわぁぁぁぁぁっ!!」
耐えられなかった。無理。本当に無理。それは無理すぎる。優司が妹になることは百歩譲って良いし、むしろ見たい。だが、その優司が神、しかも男に穢されるのは本当に無理。吐き気がする。
「絶対阻止しますからね?!」
「……頑張って!」
「嫌だぁぁぁぁぁ!! その間、嫌ッ!!」
もうヤダこの神。本当にここに来たのが父さんじゃなくて良かった。父さん、邪神より邪悪な存在になりそう。ただでさえ自分以外の人間が優司に「父さん」と呼ばれると不機嫌になるのに、自ら「優司の父」と名乗りながら「結婚」だの「自分の子を……」だの言ったら怒り狂うって。冥界が滅びるかもしれない。俺も、気を抜くと手が出そう。
「光司も優司と似ているのにな」
「え〜、似てないよぉ」
「似てるだろ、兄弟なんだから。コイツだって神守だ。ほら、大事な息子だろ。光司じゃダメなのか?」
「なんかやだ」
「え、そんなことあります?」
勝手にフラれたみたいになるの、不服すぎる。なんだコイツ。
「さ、早く仕事に戻るよ」
「この流れでですか?」
「切り替えは大事だぞ、光司」
「嘘でしょ……」
黄泉も蓬莱も本当に読めない。しかも、俺にはなんか冷たくない!? 黄泉もそうだけど蓬莱だって大概だからな!? 天界の神ならもっと俺にも慈悲をくれ! おい!!
仕事に戻る二柱の背中を見つめ、深いため息を溢す。俺は、とぼとぼ来た道を戻って行った。優司も虎雄もいない、長い道のりを一人で。
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