第81話 帰るべき場所へ
体感時間三時間、僕らは冥界から戻った。
「姉ちゃん! おかえり!!」
「お疲れ様。どうだった? 冥界は」
舞衣さんを送り届けると、秀治くんと礼治さんが出迎える。
「ただいま。なんか精神的な疲労がすごいわ」
舞衣さんは大きく伸びをしながら、家族の元へ戻っていく。
「聞いてよ舞衣〜。五日も帰って来ないから、流石に不安になってさ、武瑠くんに電話したら『うるせぇ冥界と現世の時間が一緒なわけないだろそんなことで電話してくるなボケ!』って怒られちゃってさぁ? 酷くない?」
「お父さんの電話、ウザいもんね」
「わかる。ダラダラしていて面倒なんだよね」
「え、舞衣さん? 秀治さん?」
微笑ましい家族の会話を前に、少し前まで側にいた兄や、会う予定だったのに会えなかった父、あわよくば会いたいと思っていた母のことを思い、寂しくなる。
「ありがとう、優司くん。また、体力と霊力が回復したら連絡するわ」
「え、何? 何だって?」
「もう、お父さんうるさい! 後で話すから」
「じゃあね」と手を振る彼女に手を振り返す。
「僕らも帰ろうか」
悠麒さんは僕の肩を軽く叩くと、神守家へと歩を進めた。オレンジ色の空に、少しだけ紫色が混じっている。幻想的な空の下で、男性三人が影を伸ばしながら歩く。
「寂しくなっちゃったか」
古白さんの突然の一言に、肩を跳ねる。
「ふっ、わかりやすいな。まぁでもわかるぜ。オレも久しぶりに光司に会ったら、柄にもなく感傷的になっちまった」
「優司の場合、血の繋がった家族には会えないからね。君よりも遥かに寂しいだろうよ。君は馬鹿だから、違いがわからないだろうけどね」
「オレ、今、もしかして喧嘩売られている?」
悠麒さんの言葉が癪に触ったようで、ピリッとした空気が流れる。が、悠麒さんがケラケラと笑って誤魔化すものだから、古白さんは諦めて大きく深呼吸した。
「でも安心しなよ。君の居場所は多いから」
悠麒さんは静かに話す。彼の綺麗な横顔が、夕日に照らされている。
「お父さん、多すぎ。真司も父、霧玄も養父、神楽も義父、黄泉も父? で、僕も養父。一体どれだけお父さんがいるんだって。帰る場所が多すぎて、逆に困りそうだよね」
呆れたように言う彼に、古白さんが「確かに、間違いない」と笑っている。
「でも、不安にはならないでしょ。これだけ、帰る場所があるんだ。君は一人じゃない」
これだけ多くの人に囲まれたら、流石に嫌でもわかる。僕は、愛されているのだと。
「わかっていますよ。死にたいとか、消えたいとか、もう言いません。幸せですから」
二人に微笑みかければ、彼らは満足そうにして微笑みを返してくれた。
日が沈んでいく。新たな時を迎えるために。少しずつ輝きを宿す空。その光に誘われながら僕らは家路に着いた。
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