第4話 群れるな危険③
盛り上がっているところ申し訳ないが、そろそろ帰らなくてはならない。時間の進み具合がわからないうえ、いくら敵意はないとはいえ、相手は神。長居は危険だ。
「ありがとうございました。助けていただいた恩は必ず返します。彼と僕の二人分。ですから、どうか先に彼ら五人だけでも、帰してあげられませんか?」
話を切り替えるようにして言うと、彼は、少し悩んだ様子を見せた。そして
「うーん。じゃあ、条件がある」
ある条件を提示してきた。
「そこのお友だちと神楽家の娘。五人の記憶を消させてもらう。それで良い?」
思わず、目を見開いて絶句する。
通常、神の領域内に長くはいられない。現に奏真くんと幸希くんはぐったりしている。他の二人も時間の問題だろう。舞衣さんもいつまで耐えられるかわからない。五人の命がかかっている。
それでも、僕はその条件に「わかりました」と即答することができなかった。
「そもそも、神楽の娘と優司が付き合っている意味がわからない。いつか、優司に害を与えるだろう。それに、力がないくせに化物の世界に興味がある人間も、無駄に霊力のある人間も、かつて神に魅入られた人間も、優司のいる世界を知らない人間も、優司を苦しませる。実際、彼のせいで優司は襲われかけたんだ。縁を切るべきだと思うよ。優司のために」
彼の瞳に射抜かれる。怖い、と思った。まるで蛇に睨まれた蛙だ。動けない。
「そこまでする必要があるか?」
僕の代わりに、悠麒さんが問う。
「逆に、人間との関わりって必要なの?」
しかし、彼は引き下がらなかった。
「神守家は、僕ら神を守る一家だ。人間を守る必要はない。そもそも、歴代頭首は、人間とは関わらないようにしてきたじゃないか。優司は優しいから、騙されているんだよ」
「騙してなんか……!」と口々に言ってくれる五人。それでも、彼はみんなを睨みつけることで黙らせ、僕に手を差し出した。
「友だちが欲しいなら、僕と友だちになろう。恋人が欲しいなら、僕が恋人になっても良い。僕は女にも化けられる。きっと君のためになるから。優司は神と共にあるべきだ。神である、僕を選んでよ」
不安そうな目で、五人から見つめられる。
「まぁ、一理あるな」
「麒麟……?」
「僕らがいれば、十分じゃないか?」
唐突な悠麒さんの裏切りに唖然とする。味方がいない絶望感。猛者と対立。とても耐えられるものではなかった。
「……優司、俺のことは考えなくて良い」
暁人くんが口を開く。
「必ず、お前と友人になれる。俺はお前の人柄に惹かれたんだ。たとえお前のことを忘れても、また惹かれるだろうよ」
それに続くように、舞衣さんも言う。
「えぇ。恐れることはないわ。必ず、優司くんをまた迎えにいく」
「俺も」「僕も」と宣言するみんなを見て、僕はようやく決心した。
「わかりました」
彼の口角が上がる。嬉しそうだ。だが
「もっと好条件で、取引しませんか」
僕は、彼に別の案を提示した。
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