第4話 群れるな危険④

 「僕と契約しましょう」


その一言は、彼だけでなく、悠麒さんや、舞衣さんまで驚かせた。


「おい! 馬鹿な真似だけはするなよ!?」

「また危険なことをしようとしているわけじゃないわよね!?」


必死の形相で僕の前に立ちはだかる。しかし、僕の意志は固い。お怒りの二人を押し退け、彼の目の前に立つ。


「あなたの想い、確かに拝聴しました。しかし僕にとって、この五人の存在は必要不可欠です。ですから、こんな契約はいかがでしょうか」


ポケットからカッターを取り出し、人差し指に刃を当てる。


「僕の血をあなたに捧げます。僕は、雑用にでもお使いください」


半強制的に契約を結ばせようと、指を切ろうとする。だが、不思議と切ったはずの指に痛みがない。


「わかってないね。僕は優司が傷つかないように心配しているんだ。傷つけて、眷属にして、喜ぶような神じゃない」


気がつけば、彼は僕からカッターを取り上げ、刃をしまって悠麒さんに渡していた。


「そこまで言うなら、別のお願いにするよ」


燐火りんか


耳元で囁かれた言葉を、無意識に繰り返す。


「燐火……」


呟いた途端、彼は僕の前に跪いた。見たことがある。これは、無理矢理に従属させられた者の行動。彼の意思ではない。


「えっ……?」


一瞬だけ困惑したが、すぐに事態を把握する。


「まさか、名前……」

「たくさん呼んでね、


上機嫌な彼・燐火さんが微笑む。名前を取ってしまったらしい。だが、そういうことなら話は早い。命令で事態を収束させることができる。


「では、早速ですが燐火さん」

「燐火、ね」

「……燐火。彼ら五人を家に帰してください」

「了解」


燃え盛る炎が、彼らを包み込む。彼の帰し方はこれらしい。神によって特徴があるが、彼の炎は美しかった。上流階級である証だ。幻想的な様子に目を奪われる。


「ここにいる間の記憶だけ消させてもらった。それ以外は約束通り、そのままにしたよ」

「ありがとうございます、燐火」

「ふふっ」


頭を差し出されるから、思わず、神の頭を撫でてしまった。まぁ、嬉しそうだから良いか。

 神を配下にするのは気が引けるが、これほどまでに喜ばれると「解除しませんか?」と言えない。名前を奪われて嬉しいとは、変わり者もいるものだ。

 しかし、結果的に、互いに良い取引ができたようで良かった。仲間が増えることは、非常にありがたい。強い味方がいると狙われる確率が下がる。

 戦闘にならなくて、本当に良かった。


 みんなは無事に帰ることができただろうか。

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