第34話 模擬戦④
燐火の登場に、五人の空気が張り詰める。
「さぁ、遊ぼうか」
燐火は早速、全体を炎で囲った。
「上手く避けないと焼かれちゃうよ」
五人は燐火の方を向くと、狙いを燐火に定め、一斉に攻撃を始めた。古白さんがまず燐火へと殴りかかり、その死角から波青さんが刀を斬りかかる。と、同時に背後から弓を引く大鳳さんと頭上から攻撃を繰り出す悠麒さん。みんなの援護に周り、炎に当たらないようにガードする霧玄さん。攻撃が燐火に当たることはなかったものの、連携が以前より上手くなっている。
「やるねぇ! でも、やっぱり所詮は半神」
のらりくらりと攻撃を避け、彼は指をパチンと鳴らす。すると僕の式神が強化され、完全に燐火に乗っ取られた。
「あ」
いつの間にか奪われていた式神たちを見て、声を漏らす。これが実戦だったら、と思うとゾッとする。僕も気をつけなければ。
「誰から脱落させようかなぁ?」
流石は神。余裕の表情を浮かべている。
「おい、麒麟!」
「わかっているさ」
ベテラン二人はアイコンタクトで連携し、燐火を倒そうと攻撃を仕掛ける。悠麒さんが足元を崩した後、霧玄さんが接近して燐火を捕える。霧玄さんごと悠麒さんは攻撃をするが、燐火は霊体になり、拘束をすり抜ける。霧玄さんは、防御をしていたため無傷だった。が、これでは振り出しに戻っただけだ。
「チッ、面倒な」
霧玄さんは小さく呟くと、波青さんへと視線を送る。波青さんは一瞬だけ困った顔をしたが、すぐに頷いた。この二人の間でも上手く連携が取れるようになっているらしい。あの時の、手合わせのおかげだろうか。
「朱雀、白虎、お前ら二人は式神の相手だ」
ようやく、霧玄さんの口から指示らしい指示が飛ぶ。二人は頷くと、式神を相手に攻撃を開始した。しかし
「そう簡単にはやられないんだなぁ」
燐火の力により強化されている式神は、通常の攻撃が効かなくなっていた。
「あれ、大丈夫そう?」
激戦が繰り広げられる中、礼治さんが言う。
「もしかしたら、引き分けるかもしれません」
「え、一対五で? 神守一門が負けることってあるの?」
「……ありますよ。結構、頻繁に」
報告書を思い出し、ふと悲しくなる。一体どれだけの人が、戦いの中で命を落としたことか。
「それを防ぐための模擬戦ですから」
改めてみんなの方を見る。気がつけば、もはや何が起こっているか、わからないほどに激戦と化していた。技と技のぶつかり合いによる爆発と消滅が繰り返される。ここまで来ると、もう「賑やかだなぁ」としか思わなくなっていた。
優勢も劣勢もないまま、時間だけがゆっくりと過ぎていく。
「模擬戦を終了します。燐火」
燐火を僕の隣に来させたところで、全員の手が止まる。
「……引き分け。まぁ、及第点ですかね」
波青さんは静かに刀を収める。それに続いて
「前回よりも成績は良いな」
「前々回よりはボロボロだけどねぇ」
「前々回、私たちいなくない?」
「じいちゃんたちの世代にはまだ届かないか、流石に」
霧玄さん、悠麒さん、大鳳さん、古白さんも、武器を下ろした。
「皆さん、お疲れ様でした。片付けは僕がしておきます。今日は解散にしましょう。ゆっくり、休んでください。では、解散」
僕の合図と共に、一瞬で四人が帰宅する。
一方、残ったのは僕と悠麒さん、霧玄さん、礼治さんの四人だった。
「帰らないの?」
「俺は一日やるつもりだったからな。帰っても困らせる。夕飯は食べさせてもらうぞ」
「僕も家族には『夜までかかりそう』って連絡しちゃったから、お邪魔しようかなって」
「はぁ? じゃあ手伝えよ?」
「そのつもりだ」
「もちろん!」
どうやら今日は大人数での夕飯となるらしい。僕は密かに心を躍らせながら、結界を解除し、訓練場の修復作業を始めた。
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