第35話 賑やかな食卓

 作業から戻ると、既に夕飯が作られていた。


「お疲れ。今日の夕飯は和食にしてみたよ」


見事にフルコース、揃っている。


「優司くんって、本当に嫌いなものないの? 大丈夫?」

「え? はい。基本的に何でも食べます」


唐突な質問に疑問を抱いていると


「ずっと心配していたんだぜ、こいつ。嫌いな食べ物があったらどうしようって」

「そもそも、僕が主の苦手な食べ物を把握していないわけがないのにねぇ」

「いや、嫌われたくないじゃん! 家族になるかもしれないのに。嫌だよ? 娘家族と僕だけ仲間外れとか!」

「まず、何で娘夫婦の仲間に入ろうとしているんだよ……」


そういうことらしい。「いざとなれば、虫でもありがたくいただきますけど」と言おうとしたが、混乱させそうだったため、思い止まった。

 静かに手を合わせた状態で静止する。三人はそれを見ると会話を一時的に止め、席に着く。


「いただきます」


食事開始の挨拶と共に、ゆっくりと料理を口に運んでいく。


(やっぱり、家庭の味ってあるんだなぁ)


いつもとは違った味付けに、そんなことを思いながら食べ進めていくと


「……静かだねぇ。せっかく珍しいメンバーが揃ったわけだし、お喋りしながら食べない?」


黙々と食べる僕らに礼治さんは言う。


「どう? 舞衣とは上手くやれている? 仕事のついでになっちゃったけど、夏休み旅行の方は楽しめた?」

「はい。ありがとうございました」

「舞衣から写真見せてもらったら、すごく楽しそうだったから安心したよ。優司くん、あんな顔もできるんだね」


思い出して恥ずかしくなる。


「あまり主をいじめないでよ。あと、主は元々たくさん笑う方だよ」


僕が黙り込むと、悠麒さんは、横から助け舟を出してくれた。すると、霧玄さんも口を開く。


「いろいろあったからな。幼少期と比べたら、そりゃあ笑わなくなったが……」

「へぇ。昔の優司くんを知らないから新鮮だ。昔はどんな感じの子だったの? 舞衣はねぇ、正義感が強かったよ」

「ははっ、想像できるな。優司は……あー……恥ずかしがり屋だったのか? 光司にベッタリだったことは覚えている」

「違うね。優しい子だったんだ。兄が次期頭首として厳しく鍛えられている様を見て、いつも兄に寄り添い、励ましていた。今も昔も変わらないよ」


いつのまにか昔の話になり、さらに赤面する。


「か、勘弁してくださいよ……。おそらく好きだからくっついていただけで……そんな……」

「じゃあ、僕のことも好きだったんだ」

「はぁ!?」

「おぉ!?」

「ちょっ……ゆ、悠麒さんっ……!」

「僕にも懐いてくれたよね。へぇー、主、僕のことも好きだったんだ? へぇー」


わざとらしく言う悠麒さんに、霧玄さんは軽くショックを受ける。


「俺、懐かれたことない……」

「だって玄武、昔は怖い顔していたから」

「あははー、ドンマイ、武瑠くん」

「クソッ……」


三人を見ていると、家族のことを思い出す。

 たまには、こんな賑やかな食卓も良いな。

 そんなことを思いながら、僕は最後の一口を喉に通した。

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