第21話 夏祭り①

 夏休み旅行も最終日。運良く(というよりはおそらく、これも礼治さんに計画されていたのだろうが)夏祭りに参加できる日だったため、僕らは浴衣を借りて夏祭りにやってきた。大鳳さんも連れて六人で。


「やっぱ三人は似合うよなー」

「普段は着物ですから、少し違いますけどね」

「みんなも似合っているわよ」


そんなことを話しながら歩いていると、流石は男子高校生、各々が自由に遊び始める。


「わたがし買ってくるわ!」

「見て見て、お面ー」

「え、たこ焼きめっちゃ美味い!」


自由人三人を「落ち着け!」と必死にまとめる暁人くん。僕らは互いに目を見合わせて笑っていた。


「大鳳さん、良い思い出はできましたか?」


僕が聞くと、


「それ、普通は私のセリフじゃない?」


と苦笑いされた。確かにそうかもしれない。


「うん、楽しかった。久しぶりに、普通の女子高生やっていた気がする。ありがとう」

「それはよかったです」

「朱雀ちゃんは幸希くんが好きなの?」

「ふぇっ!?」


唐突な舞衣さんの発言に、大鳳さんは顔を赤く染める。驚いた。そうなのか。


「い、いや、べ、別にぃ……?」

「誤魔化さなくても良いのに。そりゃあ自分を救ってくれたヒーローだし、惚れるのも仕方のないことよ」

「いやいやいや! まさか一般人に? 惚れるとか!? あり得ないんだけど!!」


「我々、大抵は一般人と結婚しますけどね」と言おうとしたが、グッと堪える。ここはきっと舞衣さんに任せた方が話がよく進む。


「いいじゃない。連絡先、交換すれば?」

「でも……迷惑かけちゃうし……」

「あら、朱雀ちゃんは高校生なのよ? 今ある青春を楽しまなくちゃ!」

「私は従者として……その……」

「向こうからすればただの女の子よ! 何より彼は事情を知っている。優良物件じゃない?」

「そうだけどぉ……」

「大丈夫! きっと上手くいくわよ! ねぇ、優司くん?」


突然、話を振られて咄嗟に親指を立てる。僕はみんなが幸せならそれで良い。特にまだ子どもである彼女にはいろいろと楽しんで欲しい。


「最後のチャンスよ。優司くんの許可も出た。最高権力者が許可したのだから、それはもう、誰がなんと言おうとオーケーよ!」


「行って来な」と、大鳳さんの背中を押す舞衣さんはとても楽しそうだった。

 始めはおずおずとしていた大鳳さんも、覚悟を決めたように幸希くんに近づいて、仲良さげに話をしている。遠くから、二人が携帯を取り出して何かしていた様子を見ると、どうやら、上手くいっているようだ。


「ありがとうございます」


僕が舞衣さんにお礼を言うと、舞衣さんは


「神守一門は恋愛に消極的みたいね」


と意地悪に笑って返された。ごもっともだ。心当たりが多くて、何も言い返せない。


「私は幸せになれたから、そのお裾分け」


彼女は僕の腕を両手で抱き締めると、いつもの微笑みを僕に向けた。あぁ、幸せだな。僕も、自然とそう思える。

 僕らは星の輝く空の下の賑わいの中で、互いを見失わないように寄り添って歩いた。


 みんなと別れてからわずか三分。携帯が鳴る。


『各自、別行動しよう』


暁人くんからのメール。おそらくバレたのだと思う。僕らのことも、幸希くんたちのことも。


「これで心置きなく一緒に楽しめるね」


これが彼女の作戦だったとしたら、恐ろしい。


 驚きで固まっていると、少し離れた所から、子どもの泣き声が聞こえて来た。二人同時に、咄嗟にその声の方へ走る。

 実際に行ってみれば、射的コーナーで泣いている女の子がいた。お父さんが困っている様子だったため、おそらく欲しいものが上手く取れなかったのだろう。


「優司くん、やってあげたら?」


舞衣さんの提案に、軽く頷くと


「お嬢さん、どれが欲しいの?」


僕は女の子に目線を合わせ、なるべく優しく、丁寧に聞いてみた。が、泣き止む様子はない。


「すみません。大きな白いクマのぬいぐるみがどうしても欲しいらしくて。僕にはどうにも。あはは、すみません、本当に」


お父さんが代わりに狙いを教えてくれる。狙いさえわかれば、十分だ。


「そっか。あの白いクマさんが欲しいんだね」


女の子がコクリと頷く。確認も完了。


「では、一回、お願いします」


僕は迷いなく屋台の主にお金を払い、銃を受け取った。

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