第23話 理想と現実

 会議が終わった後、僕はすぐにベッドへ身を投げた。


「お疲れ。無理をさせて悪いね。そのまま少し眠ると良い。僕は昼食の準備をしてくるよ」


悠麒さんの言葉に甘え、目を瞑る。が、先程の会議ですっかり目が冴えてしまった僕は、眠ることができなかった。


 代わりに、携帯に送られてきた写真を見る。


 写真には、満面の笑みの僕が何枚かあった。こんな顔もできるんだ、と我ながら感動する。ここまで、過去を忘れるほど楽しませてくれたみんなへと感謝の気持ちと、ふと、死んだ家族を置いて幸せになることへの罪悪感が、胸の中でせめぎ合う。

 そっと机に携帯を置くと、天井を見つめる。


(今年も会いに来てくれない……。やっぱり、顔も見たくないほど恨んでいるのかな)


お盆なのだから、こちらに帰ってきているはずだった。それでも、父も、母も、兄も、誰一人僕に会いに来てくれない。十二年前からずっとそうだった。


(言葉にしてくれたら、安心できるのに)


彼らから貰う言葉は何でも良かった。「裏切り者」「出来損ない」「死ね」でも良い。救いが欲しいわけではない。何を思われているのかをただ知りたかった。


 気分が沈みそうになったところで、悠麒さんに呼ばれる。


「主ー、ご飯できたよー」

「ありがとうございます!」


大きな声で返事をし、バタバタと悠麒さんの元へ走る。


「今日は夏野菜を使ったパスタにしてみたよ」


席に着けば、鮮やかなパスタが置かれる。


「いただきます」


手を合わせて、早速、食べ始める。あっさりとした味付けは夏野菜の旨みを引き立たせ、食感が良く、とても美味しい。


「お気に召したようで何より」


満足げに言う悠麒さんに、ふっと微笑む。


「主には、元気でいて欲しいからね。たくさん食べて、健康に長生きしてくれよ」

「ご機嫌ですね。何か良いことありました?」

「どうだろうね? 良いことあったかも。主が帰ってきてくれたこととか」

「ふふっ」


愛されているなぁ。


「……忘れているかもしれないけど、君はまだ子どもなんだから。大人しく愛情を受け取って元気に生きてくれ」


そう話す姿が、その不器用さが父と、声色が母と、瞳が兄と重なったから。泣きそうなくらいに心が満たされていく感じがして。


「はいっ……!」


伝えたいことが多すぎて、言葉がまったく出てこなかった。

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