第22話 束の間の休息②

 「……詳しく、お聞きしましょうか」


誰もが言葉を失う中、波青さんが冷静に問う。


「知っているとは思うが、僕は何百年も生きている。その中で、三回の大戦を経験した。どの大戦も、前兆として『霊の暴走』がある。ただ暴走するだけではなく、一斉に暴走する。その『前兆』と今回の事件が似ていた」


あくまで予測とはいえ、経験者の話なら間違いないだろう。


「まぁ、対策するに越したことはないという話であって、確定ではない。頭の片隅には入れておいてくれ」


 それを言われると、この後の行動が変わってくる。


「私からも白虎の件は承諾していただきたい。早急に戦力を拡大した方が良いかと」


波青さんの提案もあり、僕は


「そうですね。許可します」


要望を承認した。

 しかし、問題が一つ。


「現時点で朱雀を変えるわけにはいかないな」


霧玄さんの言う通り、ここで代替わりは厳しいと思う。また一から鍛え直している暇はない。その一方で


「しかし霊力の少ない人間が、いざという時に戦えますかね」


波青さんの意見もわかる。死亡率を上げることは避けたい。


「先代の皆様はどう思われますか?」

「私も危ないと思います。何よりの懸念は、みなさんの足を引っ張ることです」

「私は、そうですね……。やはり時間が惜しい現時点での代替わりは避けるべきかと」


朱音さんと虎之介さんでも、意見が分かれた。どうしたものか。


「悠麒さんは、いかがでしょう」


僕が問えば、彼は、始めから答えを持っていたようで


「朱雀も神化する。この一択じゃない?」


堂々と意見を述べた。

 しかしながら、案の定、これに関しては反対意見が出る。


「彼女はまだ十六です。いくら何でも早すぎではありませんか?」

「間違いなく、壊れるわ。代役がいない以上、賢明な判断とは思えない」

「私も反対だ。まだ幼い少女にアレは耐えられないだろう」


反対する三人に対し、一人だけ


「俺は悠麒の案は良いと思うけどな」


霧玄さんは賛成した。


「よく考えてみろ。霊力が少ないなら、単純に増やせば良い。手っ取り早く霊力を高める方法なんて、神化くらいだろ。どのみち死ぬなら、可能性ある方に賭けるべきだ。ぼーっと待っていても強くはならない」


黙り込む三人。確かに、一理ある。


「……わかりました。神化の儀を行う許可を、先にいただけますか?」


正直、迷っていた。ついさっき、彼女は幸せに手を伸ばしたばかりだ。それを、こちらの都合で奪って良いものか。いや、そんなはずない。しかし許可しなければ『大戦』が起こった際に死ぬ可能性が高くなる。かといって神化の儀が安全で利点ばかりかといえばそうではない。


「主」


悠麒さんが耳打ちする。


「朱雀は耐えられるよ。僕が保証する」


何か裏付けがあるわけではなかったが、何故か彼が言うならそうである気がしてくる。


「信じて良いのですね?」

「もちろん」


迷い続けて時間を浪費しても仕方がない。僕は彼の言葉を信じ、はっきりと、言い放った。


「許可します」

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