第24話 君の幸せを祈る【side:悠麒】

 主が自室に戻った後、食器を片付けながら


「……ご本人の口から伝えるべきだったのではありませんか? 殿」


主の座っていた場所を愛おしそうに眺める彼に言う。


「優司は、私と会えば自害するだろう。とても会えたものじゃない」


相変わらず、意地を張る先代にため息をつく。


「僕も、流石に御三方を一度に体へ入れるのはキツイんですけど」


ふと愚痴を溢せば


「そう言いながら、受け入れてくれるところが優しいよね」


主の兄である光司は、ニヤニヤと笑いながら、そう言ってきた。


「本当にすみません。私たちの言葉はあの子に伝わらないと思いまして。『死人に口なし』と言うではありませんか。あの子の中で、きっと私たちはあの子を恨んでいますから。会っても『愚かな幻想だ』と自分を責めてしまうかと」


彼女……先代の妻・小夜の言うことはわかる。主に彼らの想いを伝えるには、現実世界の者の力が必要だ。しかし


「何故、僕なんです?」


青龍、朱雀、白虎、玄武。別に使える人材ならいくらでもいる。玄武は特に、喜んで体を貸すだろう。思えば、彼らは玄武たちにすらその姿を見せたことがない。何故、僕なのか。


「お前はいつもで示すだろう」

「あの子にとって、一番、安心と信頼ができる人だと思いまして。愛が目に見えてわかりますから」

「優司は心配性だからなぁ。ちゃーんと、目に見える形が欲しいんだよ。麒麟みたいな、ね」


一瞬、喜びで胸が満ちる。が


「今、上手く丸め込まれた気がする……」


ムカつく笑みを浮かべる三人に腹が立つ。


「ま、俺は優司が幸せに生きてくれさえすればそれで良いよ」


ふわりと体を宙に浮かせると、光司はすうっーと姿を消す。


「来年も様子を見に来る。もし来年の優司との再会が地獄だったら許さないからね?」


最後にそう言い残すと完全に見えなくなった。あちら側に帰ったのだろう。


「では、元気でやれよ。お前たちには期待している」

「ありがとうございます。助かりました」


続いて、主の両親も帰って行った。


(難儀な一家だなぁ……)


僕はもやもやとした心が晴れないまま、作業を再開する。


(来年、か)


大戦を乗り越えなければ、来年は来ない。僕はぼんやりと未来のことを考えながら、「らしくないなぁ」と苦笑を溢した。

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