三章

第25話 神守一門の試練

 「そういえば、皆さんの試練ってどんなものなんですか?」


ふと気になった疑問を口にすると、悠麒さんは本を閉じて


「んー。人によって違うんだよなぁ」


と話した。


「人によって、得意・不得意って違うからさ。ベースはあるけど、必ず同じものじゃない」


彼は式神を出すと、わかりやすく、式神を使い説明してくれた。


「例えば、青龍の試練。ベースは感情のコントロール」


龍の形をした式神と、剣士の形の式神が、ふよふよと浮きながら対峙する。


「相手が感情的なら、感情を鎮める訓練。逆に無情なら、感情を高める訓練。ちなみに、波青龍牙は後者だった。青龍にとって怒りは最大の力であり弱点。それを理解した上で利用する。クリア条件は、青龍を怒らせた状態で彼に勝利すること。結構これが難しい」


龍の形をした式神は剣士を飲み込むと、次は、玄武の形をした式神と盾を持った人の形をした式神に形を変えた。器用だな。


「玄武の試練は取捨選択。これも精神的な訓練だね。大切なものを二つ見せられて、どちらを守るのかを決める。どちらも守ろうとすれば、どちらも失うシステムだ。ちゃんと、守るべきものを見極めて『大切なものを守り抜く』ことができたらクリア。心が折れる試練だ。あまり、やりたくはないね」


玄武の形をした式神が盾を破壊する。すると、破壊された盾が彼らを隠し、白虎と人間の姿に変わった。


「白虎の試練は戦闘に特化している。とにかく白虎を倒せば良い。厄介なのは、戦闘のセンスなしと判断されると殺してくる。死のリスクが一番高い試練だ。だが一番シンプルでもある。僕は嫌いじゃないよ」


白虎は人間を切り裂くと、次は朱雀になった。バラバラの人間は女性の射手の姿に変わる。


「朱雀の試練は回避。弓を扱う者は、やっぱり狙われやすいんだよね。弓を引く時間もある。隙ができやすい。いかに隙を埋め、自力で危機を回避するか。クリア条件は朱雀を射ること。射手ならではの訓練だよね」


朱雀の羽が女性に刺さるか、というところで、式神はパッと消えた。正確には、下げられた。


「悠麒さんは、全てやっていたんでしたっけ」

「まぁね。でも、麒麟特有なものもあったよ。試練」

「どんなものでした?」

「うーん……」


記憶を辿っているのか、説明が難しいのか。彼はしばらく考え込むと


「……拷問、かな」


と真顔で言った。それ以上は掘り下げてはいけないような気がして、「拷問……」とだけ復唱して終わる。


「神守一門は特殊だから。苦しみに耐えられる人間じゃないと、主を守るどころか、自害する可能性もある。それを防ぐためのものだ。まぁつらいけど、乗り越えたら怖いものはないさ」


彼はもう一度、本を開くと読書に戻る。そして一言、誇らしげに言った。


「だから強いんだよ、神守一門って」

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