第26話 意外な訪問者
しばらく各々でくつろいでいると、インターホンが鳴った。
「はい、神守で……」
「僕を弟子にしてください!!」
「……え?」
扉を開けた瞬間、頭を下げられる。背丈の少し低い男の子。顔は見えなかったが、その容姿は見たことがある。
「秀治、くん……?」
神楽秀治。舞衣さんの弟。確か、中学生だった気がする。
「と、とりあえず、お話を聞かせてください」
彼を家に招き入れると、彼は少しホッとした顔をして頷いた。
とりあえず、無難に冷たいお茶を出す。そして
「あの、弟子にして欲しい、とは?」
早速、本題に入った。
「僕、剣道やっているじゃないですか。今まで無敗だったんですけど、前回の大会では負けてしまって……。神楽家の男として、姉ちゃんを守るためにも強くならなきゃいけないし、最悪なのは足手まといになることです。霊力以外での戦い方を知るのが神守家……と聞いて……」
どうやら秀治くんは、剣術を習いたいらしい。
「僕たち、神楽家の宿敵だけど大丈夫そう?」
悠麒さんはニヤニヤと笑いながら、彼を茶化す。秀治くんは「あっ!」と声を上げると、耳まで顔を真っ赤に染める。
「まぁ、本気で強くなりたいのなら、僕は協力してあげても良いと思うよ」
思いの外、秀治くんに協力的な悠麒さんに少し驚く。しかし、僕も同じ意見だ。
「秀治くんの気持ちはよくわかります。協力してあげたい……と、思うのですが……」
「ですが……?」
「僕は剣術があまり得意ではありません。脇差なら多少はできるのですが、秀治くんの扱う刀は打刀か太刀に相当するでしょう」
「あ……打刀です……」
「では、別に適任者がいます」
彼なら、刀の専門家。どんな刀でも扱える。
「断られる可能性もあります。ただ、中途半端な気持ちでないのなら、行ってみる価値はあるかと思います。どうしますか?」
「お願いします!」
やや食い気味で返事をする秀治くん。どうやら本気のようだ。
波青さん宛に手紙を書くと、僕は
「中に式神が入っています。場所は、この式神が案内してくれますから、従ってください。名は『波青龍牙』です。なるべく、丁寧にお願いしてみてください。きっと上手くいきます」
彼に持たせて、玄関まで見送った。
「ありがとうございます」
彼が後ろを向いた刹那、
「あの」
彼は、もう一度こちらを向いて
「優司くんは、姉ちゃんを殺さないよね?」
不安そうな顔で聞いてきた。
「……殺したくはありませんね。そうならないことを祈る、とだけ言っておきます」
残酷な答えだが、嘘はつけない。秀治くんは、一瞬、悲しそうな顔をしたが
「じゃあ、僕が二人を戦わせないようにする。そのくらい、強くなってくるよ」
パッと表情を明るくし、清々しく、はっきりとそう答えた。
「それはありがたいですね。楽しみです」
「うん、ありがとう!」
軽快に駆けていく姿が眩しい。彼の姿が完全に見えなくなるまで見送ると、僕は再び、部屋に戻った。
__秀治くんなら、強くなれるだろう。
きっと、僕を殺せるくらいに。
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