第43話 友人だから①【side:大鳳】

 家に帰り、携帯を見ると、いくつかメールが溜まっていた。送り主の名前は、全て『幸希』と書かれている。緊急集会のこともあり、私の心臓は意識しなくてもバクバク聞こえるほど、鼓動を打ち鳴らしていた。

 そっとメールを開けば、案の定、


『優司と連絡が取れなくなった。何か、事情は知っているか?』

『怪我をしたとか、病気とかなら見舞いに行きたい』

『まさか、死んではないよな?』


その他いろいろ、優司くんを心配する文が並べられていた。


『大丈夫、死んではいないよ。けど、しばらく学校は休むことになるかも』


私が送信すると、間髪入れずに返信が来る。


『会って、話がしたい。今、時間、大丈夫?』


本当はダメなことだと、頭ではわかっていた。だけど、彼に会いたい、という気持ちが勝ってしまった。

 その後は簡単。彼は優司くんの友人で、何も知らないのは可哀想だと思って、仕方ないから会って話してあげる。

 「私は悪くない」と心に言い聞かせながら、さっと靴を履いて、私は、すぐに待ち合わせの場所へと駆け出した。


 空は、朝と夜を同時に示している。一部だけオレンジ色に染まった空の下、まだ暑さがあるはずの空気の中、幸希くんは落ち着かない様子で一人、待ち合わせの場所に立っていた。


「朱雀!」


私が近寄る前に、彼の方から近づいてくる。


「……久しぶり。とりあえず、カフェ行くか」


類は友を呼ぶとはよく言ったもので、優司くん同様、幸希くんはまず自分を落ち着かせてから私を誘導した。感情のままに動かない彼の姿が優司くんと重なって、少し悲しくなる。大きなその手に引かれながら歩く私の足は重く、身を引き摺るようにして目的地に向かった。


 あからさまに様子がおかしい(と、自分でもわかる)私に、幸希くんは


「一旦、甘いもの食べるか!」


気を紛らわせるためか、始めに注文内容に話題を向けた。私はメロンパフェと紅茶、幸希くんはアイスコーヒーを注文し、商品が来るまでは雑談をする。課題の進捗、弓道、趣味の話など学生らしい話を普通にしていた。

 しかし、注文した商品が揃い、少ししてから


「……優司は、どう?」


ようやく、本題に入った。口の中では甘い味が広がっているのに、顔は苦味に染まる。


「驚かないで聞いて欲しいんだけどさ」


私は全てを話した。優司くんが、いろいろ抱え込んでいたこと。限界が来たこと。人類の敵になるかもしれないこと。そうしたら神楽家との戦いが避けられないこと。その場合、必ず片方が死ぬこと。私たちも死ぬ可能性があること。私はどうしたら良いのかわからないこと。今、不安と恐怖に押し潰されそうなこと。


「あぁ……だから、あの時……」


話し終えた後、幸希くんは何かを思い出したのだろう、小さく呟いて納得していた。そして、私をじっと見つめた後、やや困ったように眉を下げてこう言った。


「昔話に付き合ってくれるかな?」

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