第42話 神守優司の失踪④【side:悠麒】

 緊急の集会が終わり、解散して。


 驚いた。青龍と白虎が、随分と大人になっていた。心を殺して生きてきた青龍が、主のためを考えて戦う選択をした。子どものようにすぐ根を上げて駄々をこねていた白虎が、いち早く情報を理解して己の為すべきことを判断した。赤の他人であるはずだったが、何故だろうか、二人の成長を嬉しく思う自分がいた。

 人気ひとけのない神守家の屋敷に一人、僕は静かにたたずんでいた。

 あの時、もしも玄武が主を見捨てていたら。こうなっていたのかと思うと、改めて恐ろしくなる。


「呆けている場合ではないぞ、悠麒麟児」

「感傷に浸る時間くらいくれよ、燐火」


突然、背後に立ってきた男に言えば


「いい加減、神になる決意をしろ。人間と共にいて何の得がある? そもそも、お前は人間を恨んでいたはずだろう」


燐火は僕に迫りながらそう返してきた。


「随分と余裕がないな。どうした、僕が完全な神にならなくてはいけないほどにピンチか?」


返事はない。図星のようだ。


「言ったはずだ。僕はだと。主が本気で神になることを願わない限り、僕は君たちに手を貸すことはない。彼が人間である以上、僕は人間の味方をするしかないんだよ」

「……人間が嫌いでも、か?」

「主のためなら、僕の好き嫌いは関係ないさ。主のためなら、僕は従順な駒になれる」

「ハッ、狂ったか! やはり、人間が神になることはできない。お前は一生、半端者だ」

「半端者で結構。半端者だからこそ、僕は主の隣にいることができる。主の心がわかる」


燐火は悔しそうに舌打ちをすると、僕の胸ぐらを掴み、低めの声で


「だが、今の神守優司は『神側』だ。優司が、そしてお前が、我々を選んだ。裏切り者がどうなるのかは、わかるよな?」


釘を刺すように言ってきた。しかし、


「全ては主の意のままに。神の元で休息を取ってもらっているが、その後は……さて、どうなることやら」

「始めから、神に手を貸すつもりはないか」


燐火の言う通りだ。僕は目的のためなら手段を選ばない。人間だろうと神だろうと関係なく、させてもらうだけだ。


 「ところで、主の様子は?」


この不穏な空気を変えようと、話題を逸らす。


「あぁ、未だに寝たきりだ。限界まで我慢していたみたいだね。タイムリミットは近いよ」

「起きた時にどちらが出るか、だな」

「絶対に『器』が出るよ。恋人にも、育ての親にも、見放されたんだから」

「傷つくのなら、最初から、何も信じなければ良いのにな」


信じられなくても、信じずにはいられない。愛を知らずとも、愛さずにはいられない。優しい子だからこそ、常に奪われる側。それが主だ。周りの人間が自分の愚かさに気づき、素直に「ごめんなさい」が言えたら良いのだが。


「今後のあいつらに期待、ってところかな」


主が表に出られるのは、まだ先のようだ。

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