第42話 神守優司の失踪③【side:古白】

 波青が退出してから、重かった空気は、更に重くなっていた。全員がうつむいて何も言わない。いつもなら頼りになる霧玄と悠麒がこんな様子だから、どうしようもない。


「……心当たりはあるのかよ」


オレが聞けば、悠麒は少し苛立ったように


「わかるわけないだろ」


ギリッと奥歯を噛んで言った。


「『その痛みを分けてくれ』と言っても、主は全て抱えて笑っていたんだ。これ以上、他人である僕に何ができたって言うんだ。家族でさえその心の内を明かさなかった男だぞ? 側で、なるべく傷つけないように支えることが精一杯だったさ……!」


確かに、優司はそういう男だ。どれだけ悠麒が寄り添おうとしたところで、気休めにしかならないだろう。だからこそ


「……だから、優司をさせたのか」


悠麒は悠麒なりに気を遣って、その結果、神に優司を託した。その方が優司のためになると、そう信じて。


「オレはお前を責めるつもりはない。むしろ、優司を救ってくれた助かった。礼を言う。だが波青の言葉を聞いて思った。オレたちがすべきことは、優司を神の世界から引き離し、一人の人間として扱い、幸せを与えることじゃないかって。ここから先は任せて欲しい。人間であるオレたちの仕事だ。お前は今まで通り、優司の隣であいつを守ってくれ」


オレが言うと、悠麒は少し驚いた顔をした後


「戦力が削れるどころか、マイナスになるぞ」


静かに、聞いてきた。何かを恐れているような口ぶりだった。それでも。


「優司の元から全員が離れたら、それこそ何もする間もなく壊れるだろう。最後まであいつの味方でいてくれ。そして、二人で戻って来い。オレはお前を信じる」


悠麒は主と敵対できない。ならば、しっかりと守り続けてもらえば良い。その方が優司のためになるし、何より、こちらも本気で殴ることができる。


「なるほど。この僕を、微調整に使うわけか」


オレの意図を理解したのか、悠麒は呆れたように笑って言う。


「不満か?」

「まさか。ただし、気をつけろ。君たちが弱い場合、僕は君たちを見捨て、主を守ることだけに専念する」

「言われなくても。そっちこそ気をつけろよ。うっかり殺しちまうかも」

「ほざけ。人間ごときに半神が負けるかよ」


何処と無く、程良い緊張感の元、いつもの空気が流れる。

 この先は、同志による団体戦だ。オレはまず波青のところに行きたい……が、先に退出したということは、あいつもまだ、気持ちの整理が途中ということだろう。

 ならば、オレのすべきことは三つ。


 個人的な鍛錬と、情報収集、作戦の立案だ。

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