第42話 神守優司の失踪②【side:波青】

 悠麒殿の話は一理ある。だが、


「だから、止めなくてはならないのでしょう」


私の意思は変わらない。


「傷つけてしまったからと言って、何もしないわけにはいきません。我々のせいで道を外してしまったのなら、尚更。間違いを正すことも、従者としての務め。そして、大人の務めです」


はっきりと言い切れば、悠麒殿は


「まぁ、それも一つの手だな」


と、すんなりと受け入れた。彼の地雷はわからない。ただ、一つ言えることは


「しかし、厄介ですね。傷心状態なら、多少の救いはありましたが……。心を喪失しているとなると、なかなか回復は難しい……」


勝機が、今のところゼロに等しいということ。


「まずは、主の抱えている問題と本当の願いが知りたいところですね」


小さく呟けば、悠麒殿は目を丸くする。


「……本当の、願い?」


そこで、私は初めて、歯車が噛み合っていないことに気がついた。


「まさか主が恨んでいるのは人間だと、本気で思っていませんよね?」

「神を選んだということは、そういうことなんじゃないのか?」

「はぁ?」


呆れた。主のことになると知能が下がるのは、霧玄殿だけじゃなかった。よりにもよって悠麒殿まで盲目になるとは。


「断言します。優司くんは、人間を恨むような人ではありません。深い闇の中で甘い言葉に誑かされたか、或いは精神的に限界が来たか、その二択でしょう。私は優司くんではありません。ですから、彼の抱える現状も、願いも、わかりません。しかし、これだけは言えます。彼は人間です。真司さんと小夜さんから生まれた、紛れもなく、神守家の。同じ種族を恨めるはずがありません。自分を恨みながら、仲間を恨むというのは難しいことです。人間とは、『みんなが悪い』に辿り着けても、それを受け入れることはできない生き物ですから。だから戦争するのでしょう?」


柄にもなく、少々熱くなってしまった。私は、一度深呼吸をして整えると


「とにかく。悠麒殿も霧玄殿も、冷静になって考え直してください。最も彼の近くにいたのはお二人でしょう? 何のために彼の側にいたのです。これで万が一、主の異変を見逃していたのなら、いよいよ許しませんよ」


それだけを残し、その場を去った。

 これ以上は自分をコントロールできる自信がなかった。「冷静になれ」という自分が、一番冷静でいられなかったのかもしれない。冷静を装いながら、胸の鼓動は、いつものスピードを忘れていた。


 優司くんがこうなった責任は私にもある。


 彼に万が一の方があれば、先代に顔向けできない。私には、私の為すべきことがあるはずであるのだ。

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