第42話 神守優司の失踪①【side:悠麒】

 燐火に主を託すと、問題はすぐに解決した。流石だと思う。こればかりは、完全な神の方が優れている。には。

 主の意思はよくわかった。あとは、こちらの仕事だ。


 従者を招集し、軽く事情を話す。


「主は、神を選んだ。お前たちはどうする? 主について行くも良し、人間を守るために神楽側につくのも良し。ちなみに、僕は、最後まで主を支えるよ」


僕が話すと、案外、青龍は覚悟していたようで


「私は神守一門としての役目を果たしますよ。彼に血は似合わない。止めてみせます」


キッパリと、そう言った。一方で


「あいつが人間を見捨てるわけないだろう! 何かの間違いだ、こんなこと……」

「……ごめん。私も、今の状況を受け入れられない。答えは、出せないわ」


白虎と朱雀は、事実を受け入れることができていなかった。


「あなたはどうです? 玄武」


僕の代わりに、青龍が問う。玄武は顔を青白くさせながら、静かに「そうか」と、繰り返している。


「……決断できないとは、あなたらしくない」


やや苛立ちを含んだ言い方で、青龍は玄武へと詰め寄る。


「養父としての責任感はないんですか? 我が子が危険に晒されても見殺しにすると? あの時みたいに?」


青龍の挑発に、見事に乗せられる玄武。玄武は息を荒げながら、青龍に殴りかかった。無論、そんなことは想定内である青龍はそれをわす。玄武は大きく舌打ちをすると、


「お前に俺の何がわかる!! お前に! 俺の何がッ!!」


我を忘れ、子どものように叫んでいた。正直、面倒だ。確かに玄武の気持ちは理解できない。僕らは玄武ではないから。でも


「じゃあ、君に主の何がわかるの? 悪いけどはっきり言うよ。主が神を選んだ理由は、君が頼りなかったからじゃない? 主は人間に失望して、神に身を委ねた。それってさ、君たちも原因の一つってことにならない?」


自分勝手な主張に、僕は間違いなく腹が立っていた。


「知っているかい? 人間の心を壊す存在は、いつだって人間だった。何気ない一言で傷つく脆い存在だと知りながら、君たちはいつも簡単に他人を傷つける。主がどんな思いで今まだを生きていたか、君たちは本当にわかっていたのかい? 生まれながらにして、絶望することが決まっていた彼のこと。生まれながらにして、生贄として人生を縛られた彼のこと。何一つ、わかっていないからこうなったんだろう?」


責めるつもりはなかったが、無知が生む悲劇は多い。わからないのなら教えてやるしかない。


「ふざけるのも大概にしろ。お前らが主を……神守優司を殺したんだよ」


他でもない、それが真実だった。

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