第43話 友人だから②【side:大鳳】
「優司と友人になったのは高校一年の時で、同じクラスだったからなんだけど……実は昔に僕らは会っているんだ。
十年前のこと。忘れもしない。雪の降る夜、僕は神社にお参りに行ったんだ。父さんが病で倒れ、神頼みしか残された方法はなくて、塞ぎ込む母さんの代わりに、一人で神社に。当時、僕は八歳。無知だったから、神社の構造を理解していなかったんだよね。知らないうちに山の中みたいなところにいて、最後まで自分が別の場所に来てしまったことに気がつかなかった。
帰りたいのに帰れなくてさ、どうしようかと
彼のことが忘れられないまま、僕は高校受験に挑んだ。体験入学の時、あいつを見つけて、確信した。『あの時の子だ!』って。オーラというか、何というか、違うよな。優司がここに来るという可能性に賭けて、僕は受験、合格。そして仲良くなって今に至る。
名前の通り、優しさの化身みたいな奴だよ。わざわざ仕事の邪魔になるような悠斗も、仕事を増やすような奏真も、僕みたいな厄介な奴もそばに置いてくれる。それで、守ってくれる。だから、僕は優司が好きだ。最高の友人だと、本気で思っている」
幸希くんは懐かしそうに話すと、そっと微笑み
「僕は、そんな優しい奴が人間を滅ぼせる訳がないと思う。事情は深く知らないけど、僕は、優司を信じている。あいつはきっと疲れているだけだ。優しいから、いろいろ溜め込みすぎただけだ。ストレスを発散させてしまえば、またみんなで笑い合える日が来る……と思う」
私の目を、じっと見据えた。そして、少し低い声で
「無理なことを承知で聞く。もう一度、僕に力を貸してくれないか?」
真剣に聞いてきた。
「……ダメ。今回は、本当に死ぬ。彼は、もう人間じゃない。神の子なの。それに……」
こればかりは承諾できない。気持ちはわかるが結末はわかりきっている。実績があるとはいえ最悪の事態が起きた時のことを考えると怖い。優司くんが、もし、幸希くんを殺してしまった場合。私は……。
「友人だからこそ、僕は、優司と決着をつける必要がある」
それでも、幸希くんは折れない。
「謝らないと。要するに、そばにいても僕らが情けないから、弱さを吐き出せなかったんだ。それは僕らが追い詰めたことにならないか? ちゃんと謝って、全部を吐き出させて、殴る」
「……殴る?!」
途中まで共感して、最後の一言で、感動が吹き飛ばされた。
「当たり前だろう。追い詰めたのは僕ら。でも限界まで誰も頼らずに迷惑をかけたのは優司。誰かがあいつを咎めなきゃ、また罪悪感を抱え込んで爆発するよ」
口元は笑顔だが、本気の目をしていた。アイスコーヒーの中の氷が溶けてカランッと軽い音を立てる。それも
私は大きなため息を一つ溢すと、諦めて家に帰った。
猛獣と化した一八二センチの大男を連れて。
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