七章

第71話 本音

 「ゆ…………、……ぅじ……、優司ッ!!」


名を呼ばれ、ハッと目を覚ますと、僕の周りを神楽家と神守一門が総出で囲っていた。


「僕は……ッ!?」


ガバッと体を起こせば、酷い頭痛に襲われる。


「あまり無理をしないで。慰霊の力でようやく眠らせることができた程度。回復がうまく効かなかったの。心身共に、傷は癒えていないわ。しばらく安静に、ね」


舞衣さんに再び体を寝かされ、呆然と、天井を見つめる。


「……大変、申し訳ございませんでした」


今の僕に言えることは、ただそれだけだった。どんな処罰が待ち受けていようと、受け入れるしかない。波青さんの姿がないところを見ると、僕が引き起こしたこの戦いで、彼は死んでしまったのだろう。合わせる顔がない。


「まるで罰を受ける前の罪人みたいだね」


悠麒さんは笑っているが笑い事じゃない。人の命を奪ったのだ。僕が、殺した。また、僕が。


「ねぇ。僕らが何を言いたいか、わかる?」


悠麒さんは静かな声で言う。あからさまな挑発だとわかっていても、心の奥底から込み上げる感情が抑えられない。


「殺すなら早く殺せよッ!!」


いつもなら押し殺せるはずの感情が、溢れて、止まってくれない。


「あぁ僕が悪かったよ! 全部僕のせいだ! 僕のせいでまた人が死んだ! ここまで来たらいっそ笑いものだね! 不幸を振り撒く哀れな人間だよ、僕は! 殺せ、僕を殺せば君たちは幸せになれるんだろう?! 殺せ、殺せよ! 殺せば良いだろッ!!」


完全に幼い子どもの癇癪だ。みっともなく涙をぼろぼろと流しながら、繰り返し、訴えることしかできない。


「なんでいつも僕ばっかり……ッ!」


喚くことしかできない口を塞ぎたくて、奥歯を噛み締める。しかし舌が言うことを聞かない。随分と疲れているのに、口だけは回って仕方がない。


「死にたい。一人になりたい。僕のことなんて忘れてくれ。こんな理不尽な世界なんて消えてしまえ。いや、嫌だ、生きたい。孤独は嫌だ。愛して。愛されたい。この世界を愛したい……あぁ……あぁ……!」


頭が割れそうだ。こんな矛盾だらけで醜い僕は僕じゃない。信じたくない。これが僕なんて。


「助けて……誰か……助けて……」


救われて良い人間じゃないのに、救われたいと願ってしまう。みんなの目が怖くて見ることができない。見ないでくれ、こんな僕。


「それが本音か」


悠麒さんの声が怖い。とても顔を上げるなんてできない。


「その想い、始めから聞きたかったな」


その言葉を聞いた途端、雁字搦がんじがらめだった心の糸が解けたような気がした。

 恐る恐る顔を上げてみれば、怒っている人も失望したような顔をしている人もいなかった。

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