第7話 攻撃力向上訓練②

 漫画の悪役のような、狂気的な笑い声と共に古白さんが攻撃を繰り出す。それを軽々と避ける大鳳さん。僕を鍛えてもらう、という話だったが、一体その話はどこに消えてしまったのか。僕は何を見せられているのだろうか。

 結界を張っているとはいえど、ストッパーが外れた古白さんは怖い。過去に、素手で結界を壊したことがある。何度も結界に衝突しているところを見ると、冷や汗が止まらない。

 もはや、目で捉えることすらままならない。


 さて、どうするべきか。


 別行動している悠麒さんたちを呼び出すことは避けたい。向こうの状況がわからない以上、不利な状況にさせるわけにはいかない。となると、自分で解決しなくてはならないのだが……言葉で止められる二人ではない。かと言って、こんなことで無理に縛りを使うのも、気乗りはしない。それが痛みを伴うことだと知っているから。


 古白さんの動きを観察する。


 彼は乱暴なようで、真面目だ。彼の祖父から体術を学び、その教えに忠実に戦う癖がある。

 まず、必ず地面に足をつける。地を蹴り上げるようにして勢いをつけ、相手を捉える。手足のどちらによる攻撃かは攻撃するまで見えない。構えの姿勢から、瞬時に体勢を整えて、攻撃に移る。攻撃回数は一回が主流。一撃必殺の技が圧倒的に多い。逆に、当たらなければ別にどうということはない。

 回避率は高いが、耐久性はない。つまり一度部位破壊してしまえば動きは止まる。が、接近戦に強い彼の懐に入ることは難しい。遠距離戦が得意な大鳳さんでも、彼に攻撃を当てることは少なく、また、なかなか近づけていない。

 霧玄さんなら大鳳さんの矢を銃で撃ち落としつつ、死角から古白さんに接近して仲裁するのだろう。しかし、僕にその技術はない。


 (一か八か)


銃を片手に、古白さんの背後へとそっと回る。これで、自然と大鳳さんの視界に入るはずだ。いくら弓のコントロールが上手くても、彼女の性格上、少しでも僕に当たる可能性があれば、矢を射ることはない。


(よし、気づいた)


彼女の顔の横に狙いを定め、銃を撃つ。一応、狙い通りの場所に弾が当たる。念の為だろう、大鳳さんも大きく体勢を崩し、回避する。


(さぁ、これでどうなるか)


我々は仕事上、音に敏感だ。大きな音がすればそちらを見ずにはいられない。それが銃声なら尚更。それを利用させてもらう。案の定、彼はこちらを振り向き拳を振り上げた。


(振り向き左、攻撃右手……!)


右に回り込んで死角に入る。振り上げられた拳とは反対の腕を掴み、力の限り引っ張る。力が込められているのは右手。反対の方は僕にも軽々と引っ張ることができた。彼がバランスを崩した好機を逃さず、瞬時に彼にまたがる。


(あ、できた)


想像以上に上手くいき、自分でも驚く。

 大鳳さんも口を手で覆い、目を丸くしていたが、やはり一番驚いていたのは、古白さん本人だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る