第7話 攻撃力向上訓練①

 従者たちは本当に優秀だと思う。主である僕よりも、数百倍強い。だからこそ、彼らを信頼して解放した。僕の従者にならずとも、自分の役割をしっかり果たしてくれる。僕がいては、むしろ足手まといだ。

 そう。足手まといになるほど、僕は弱い。


「優司ぃ、回避だけじゃ勝てないぞ〜」


余裕の笑みを浮かべながら、攻撃を続ける古白さん。これは訓練なのだから、と古白さんに拳を振り上げるが、それが当たることはない。


「遠慮してる〜?」


遠慮はしてない。断じて。そろそろ一発くらい攻撃を当てたい。当てたくても、当たらない。のらりくらりと回避されるから。


「優司くん。急所狙いな、急所」


大鳳さんからアドバイスを受ける。が、急所に近づくことがまず不可能だった。力がないのはわかっていたが、何よりスピードが足りない。弱々なパンチすら当たらない。それが問題だ。


「もう。こうやるのよ、こうっ!!」


お手本と言わんばかりに、大鳳さんが古白さんの股間に強烈な蹴りを入れる。躊躇ない、その一撃に悶えている彼の首に、大鳳さんはそっとナイフを当てた。


「はい、死んだ」

「テ、メェ……」


これが一般人なら気絶していただろう。攻撃力が違う。確かに咄嗟に防御していたが、急所に直撃したのは事実だ。いくら人間離れした古白さんでも、流石にすぐには立ち上がれない。


「優司くんを揶揄からかった罰よ。もっと、ちゃんと真面目にやりなさいよ。大人のクセに」

「クソガキがぁ……」

「そんな弱々しい声で言われても効かないわ。負け犬の遠吠えね」


どうやら、彼女は、僕の知っている大鳳さんを超えたらしい。か弱い少女だった大鳳さんは、古白さんと手合わせしても負けないくらい成長していた。


「アンタがその程度なら、優司くんのコーチは私が引き受けるけど?」


長い髪をひらりと軽くなびかせ、にっこりと笑う大鳳さん。黒い瞳が、一瞬だけ赤く光る。くるくるとナイフを回しながら、僕の隣に立つ。


「私は優司くんと少しでも長くいたい。だから半端な訓練はしないし、何より有意義な時間を約束するわ」


そこまで言われて黙っているほど、古白さんは大人しくない。振り上げた拳は、僕の大鳳さんの間を大きく分けた。地面が少し凹んでいる。


「言ってくれるじゃねぇか」


大鳳さんの挑発に乗った彼は、ギリギリと歯を噛みながら立ち上がる。ようやく、訓練を再開するのかと身構える。しかし古白さんは僕ではなく、大鳳さんの方に向き合った。そして口を開く。


「見ておけ、優司。こいつをぶっ潰す」


あぁ、ダメだ。完全に置いていかれた。

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