第6話 協力者

 彼女に事情を話すと、まず始めに、ため息をつかれた。


「お人好しよね、優司くん……」


「先代なら、力で黙らせていたんじゃない?」と言われてしまえば、返す言葉もない。僕には父の記憶がない。だが、資料はある。父の記録を見る限り、思想は悠麒さん寄りの人らしい。何かと暴力で解決していた。


「しかし、負の連鎖を断ち切るには、どこかで誰かが我慢しなくてはなりません」


まさか、神に「我慢しろ」とは言えない。我慢するのは常に僕ら。それが現実。


「協力するのは構わないわ。でも、正直な話、どこまでできるかはわからない。神様と霊は、まったく違うものだからね」

「その通りです。僕からお願いしておいて変な話ですが、無理だけはしないでください。もし、危険が迫るようでしたら逃げてください。従者たちは自分でなんとかできますから」


我ながらだいぶ酷いことを言っていると思う。あんなに命をかけて守ってくれている従者を、いざとなれば見捨てろと言うのだから。だが、彼らに対しては信頼していた。僕を守るから、本来の力が出せていないだけ。本当は、彼らは神を殺せるほどの力を持つ。だからこそ、出た言葉だった。


「……わかった。それが最善策なら、従うわ」


五枚ほど、式神を呼ぶための札を渡す。これで、いざという時の時間稼ぎはできるだろう。



 彼女の後ろ姿を眺めていると、隣にある気配を感じる。


「へぇ、彼女の手を借りることにしたんだね」

「何の用ですか、燐火」

「用はないよ」


ゆらゆらと揺れる炎に囲まれ、「仕方のない神だなぁ」と笑みを溢す。


「用はなかったけど、今、できた」


ふさふさの尻尾を左右に揺らし、くるりと一周回ってみせる彼。


「気が向いた。彼女を守ってあげるよ」


意外な一言に、僕は目を丸くする。


「主のこと、近くで見ていたらわかった。あの少女は、主に必要な子だ。利用価値、と言えば主は怒るだろうけど……まぁ、とにかく認めてあげるってことだよ」


「主を幸せにしている間は、ね」と笑う燐火。もし、破局すれば、彼は彼女を殺すのだろう。それを考えれば恐ろしくもあるが、それ以上に


「えぇ、助かります」


彼女の身の安全が確保されたのはありがたい。それに、いざとなれば、燐火に命じれば良い。「やめろ」と。

 感謝の言葉を嬉しそうに受け取ると、早速、自分のテリトリーへと帰っていく。動物らしい(と言っては失礼だろうが)可愛らしい一面を見せる燐火は、見ていて微笑ましい。どこからだろうか、些細な幸福感が湧いてくる。



 心強い味方を二人も得た。

 恐れることは、もう何もない。



 __反撃、開始だ。

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