第5話 緊急会議③

 こんなことになるとは思わなかった。


「半端者の分際で、この僕に逆らうか!」

「はぁ!? 長年生きているくせに、先読みの能力もないのか! 少しは考えろ!!」

「だ・か・ら! 外野を含めて皆殺しにすれば問題ないだろうが!!」

「そのせいでこうなっているんだろうが!!」


普段はニコニコと笑みを浮かべている二人が、こんなにも激しく喧嘩している。まさか、あの温厚篤実な波青さんがここまで怒るとは。敬語だって外れている。一応、青龍の加護を受けているからなのか? 龍だからなのか? 逆鱗に触れた感じ?


「……悪いな、こんな奴らで」


結界を張りながら、霧玄さんが隣で言う。もし彼の結界がなければ、今頃部屋が大惨事だっただろう。もっと言えば、僕も怪我しそうだ。


「根はいい奴なんだけどな。主のことになると正常な思考・判断ができなくなる」


ガタガタと家が揺れている。暴れ狂う彼ら二人を見る限り、その通りらしい。


「それにしても、どうすれば良いんだコレ」


煙草を吸いながら呟く霧玄さん。時々、霊力の塊が飛んでくるのを、片手で弾きながら、僕を守ってくれている。


「……慰霊の力は、神に対しては無効となるのでしょうか」


ふと、思ったことを口にする。すると、ピタリと二人の喧嘩が止まった。


「神楽家の手を借りるんですか!?」

「お嬢と付き合いがあるとはいえ、プライド的にどうなんだ」


波青さんも悠麒さんも、みんな反対のようだ。


「俺は良いと思うけどな」


霧玄さんを除いて。


「ただし、お嬢が無能じゃなければ、の話だ。失敗は許されない。失敗すれば、俺たちは生き残れても、お嬢は死ぬぞ」


厳しい現実が叩きつけられる。

 霧玄さんの言う通りだった。霧玄さんは舞衣さんのことを守ってくれるかもしれない。彼は子どもに優しいから。しかし、波青さんは戦闘になれば冷酷だ。不要と判断すれば、しっかり情を捨て、切り捨てられる。悠麒さんに関しては、僕以外の人を守っている様子を見たことがない。僕の命令であれば渋々守ってくれるが、相手が実力者なら話は別だ。適性があろうと、なかろうと、「力不足のお前が悪い」と言う。

 舞衣さんを危険に晒したくはない。しかし、このピンチを抜ける切り札は彼女だ。もしも、彼女にその力があれば、我々の勝利は確実だと言える。国の未来がかかっている。それでも、どこかで彼女を傷つけたくない自分が巻き込むことを拒絶している。


「本人に聞いてみれば良いんじゃねぇのか?」


優しい笑みを浮かべながら、霧玄さんが言う。


「何のために口があるんだ。無理なら無理、嫌なら嫌と言うだろう。聞くだけタダだ。迷ったなら、本人に聞け」


簡単なことだった。命に変えても、守り抜くと誓ったではないか。彼女を信頼しているから、だからこそ、彼女を頼ろうとした。この不安を解消したいなら、彼女に聞けば良い。

 話はそれからだ。


 「では、結果を後程お伝えします。解散」

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