第15話 噂の廃屋

 早速、廃屋へと足を踏み入れる。


「結構、大胆なのね……」


躊躇ちゅうちょなく歩いていく僕に、苦笑する舞衣さん。しかし、前にも言ったように、僕には「ここは安全だ」という確信があった。と、いうのも


「ここで人魂みたいなものが見えるらしいぜ」


悠斗くんの歩調が緩やかになっていく。


「えっ、アレ、そう!?」


奏真くんの指さす方には、確かに、青白い火の玉が浮かんでいる。


「キター!! え、写真撮って良い!?」

「どうぞ」


にこにこと後ろからみんなを見守っていると、流石に舞衣さんも気がついたようで緊張が解け始める。


「気が済んだら帰りますよ」


僕が声をかけると、暁人くんが疑問を持つ。


「仕事は?」


真実を話しても良いのだろうか。そんなことを考えていると、


「お友だちと遊びに来てくれたの? 神守様」


ここの主であろう神が、僕の横に立って言う。僕は、隣の小さな女の子の神に微笑むと


「仕事中ですよ」


暁人くんに言いながら、彼女の頭を撫でた。


「彼らは面白いですよ。喜ぶ人もいれば、驚く人もいます。感心する人もいますし、無反応の人もいます。多種多様な反応が見れますから、思う存分、お楽しみください」


小さな子どもの神は嬉しそうに笑うと、ぴょんぴょんと跳ねながら『イタズラ』を始めた。

 火の玉が現れては消え、あちこちで超常現象が起きている。神の姿が見えていないみんなの反応は本当に多種多様だった。だが、見える側からすれば、子どもがお兄ちゃんたちと遊んでいる微笑ましい風景にしか見えない。


「よく、少ない情報から気がついたわね」


そっと、隣で舞衣さんが言う。


「被害情報がありませんでしたから、経験上、子どもの神によるイタズラかと」


僕が言うと、大鳳さんは付け加えて


「子どもの神は力がないから、イタズラで術に慣れて、超常現象の噂を広めることで存在感を放つ。噂を広めるためには、強い印象を与えるだけではなく、人間が無事に帰ることが必須。だから被害情報がない。そういうシステムね」


軽く解説をしてくれた。

 楽しそうに友人たちで遊ぶ少女の姿は、見ていて飽きない可愛らしさがある。術が成功するたびに、こちらを向いて目を輝かせる。まるで保護者になったような気分だ。

 次第に失敗が少なくなっていく。四人が疲れ果てた時には、彼女の力は安定してきていた。


「神守様!」


少女がこちらを向いて、元気に言う。僕が軽く手を振ると、彼女は丁寧にお辞儀をした。どうやら様子が先程と違う。これは、まさか。


「ありがとうございました!」


満面の笑みでお礼を言うと、ふわりと宙に浮く少女……の姿をしていた神。最早もはや、そこに幼い子どもの姿はなかった。強い光を放つ彼女の姿は、まだ多少未熟ながらも、おそらく真の姿であろう『鳥』になっていた。

 廃屋から飛び立つ彼女を見送る。ついさっきまで彼女がいた場所には、四枚の羽が置かれていた。しっかりと加護が込められている。付き合ってくれた彼らへのお礼といったところか。その小さな白い羽にそっと触れれば、ふんわりとした感触が心を癒し、温もりが指に伝わる。


「こちら、彼女……怪異の正体からのお礼の品です。加護が込められています。大切に、持っていてあげてください」


四人に羽を渡せば、幸希くんは少し寂しそうな顔をしていた。なんとなく、察したのだろう。軽く羽を胸に当てると、祈るように目を瞑っていた。


 帰り道、薄暗い夜道に光が灯る。火の玉ではなく、神秘的な光。最後の最後まで、『安全』に帰してくれるようだ。ありがたい。

 僕らは彼女に感謝しながら、非日常的な夜の散歩を楽しんだ。

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