第18話 噂のトンネル④【side:大鳳】
そろそろ技の効果が切れる。やはり一撃では仕留められなかった。これで私は終わり。霧玄さんならどうしていただろう。波青さんと古白は得意分野だろう。馬鹿にされそうだな。悠麒さんは……楽勝か。最後に思い出していくのは仲間のことばかりだった。
敵が動き始める。無論、怒りで強さは増幅。体の動かない私には、攻撃も防御もできない。
あぁ、死ぬんだ。
あまりにも素朴な感想が出てきた。きっと、主のために死んでいった従者は、こんな気持ちだったのだろう。
諦めて目を閉じようとした時だった。
「朱雀!」
懐かしい霊力が敵を貫く。しかし、おかしい。霊力は確かに知っているが、この戦い方は知らない。
「……あなた、は」
そっと視線を矢が飛んできた方に移せば、優司くんの友人が、私の母の弓を引いていた。
「なんで……」
「式神が飛んできた。霊と戦える人間が僕しかいなかったから、道具だけ借りてきた」
「見えて、いるの……?」
「ま……じゃない、えっと、神楽? に可視化してもらった。霊力耐性はある。大丈夫」
意外だった。見えない人間にも霊に干渉できる者がいるとは聞いていたが、まさか優司くんの友人がその一人だったとは。
「動ける?」
「……厳しいかも」
「わかった。神守は無事?」
「霊を倒せば目を覚ます。一応、安全」
「矢があいつに当たることは?」
「ないわ」
「了解」
彼は何を思ったのだろうか、私を抱き抱えると優司くんの結界の後ろに私を置いた。
「ちょっと怖いことしてもらっても良い?」
何のことかわからなかったが、
「主を救ってくれるなら、何でも協力するわ」
私の思いは揺らがない。
「じゃあ、挑発してもらおうかな。神守と恋人って設定で、意識のない神守に愛を囁いて」
「はぁ!?」
声が真剣だから、この状態で揶揄っているわけではないだろう。しかし、あまりにも難易度が高い。だって優司くんにはお嬢が……。
「早く。神守のこと、嫌いじゃないだろ」
「いやっ、でも、あの……」
「……じゃあ、少し耐えて。演じて」
「はい?」
彼は私の顔をそっと掴むと、優司くんの前で、額に軽くキスをした。
「……っ!!?」
驚きと恥ずかしさで顔が真っ赤になる。彼は、見せつけるように敵に視線を送ると、弓を取り
「僕も、割と強いよ?」
力強く、矢を射る。
母の力の強さが大きく関係しているだろう。敵の霊力が矢に込められた霊力と衝突。母の力が優勢だったため、敵の霊力が少し削れる。
「もう一本、いきます」
敵が再生する前に、彼は追撃を始める。しかも的確だ。的確に敵へ当てている。すごい。
「ラスト。ちょっとごめんねー」
彼は襲い来る敵を軽く避けながら、敵の背後に回る。
「信じるよ、朱雀」
霊力さえ補えば即戦力になる強さ。その強さに目を奪われる。彼から「信じる」と言われて、浮かれている自分がいる。優司くんに言われるものとは違う喜び。
(なにこれ……)
目の前で散りゆく敵を見て安心すべきところ、彼の無事に安心して、彼の方を見てしまう。
「倒したけど、神守は起きそう?」
「あ……うん……たぶん、しばらくすれば」
「じゃあ、二人担いで帰るかー」
軽々と私を背に、優司くんを両手に歩く彼。
「すごいわね」
素直な感想を述べると、彼は笑いながら
「力だけが取り柄だからねぇ」
と、それだけ答えた。
彼の背中はあたたかくて、安心したせいか、いつの間にか寝てしまっていた。
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