第18話 噂のトンネル③【side:悠斗】

 お手洗いから戻ってくると、何故か、幸希がまだ起きていた。


「寝ないの?」


俺の問いに


「胸騒ぎがする」


とだけ答える幸希。やはり神隠しの経験がある幸希には、特殊な能力があるのだろうか。

 不思議に思っていると、窓の外でパタパタと音を立てる白いものが見える。


「優司の式神……?」


俺が呟くと、幸希は急いで舞衣ちゃんを呼んできた。


「え、舞衣ちゃん戻っていたの?」


舞衣ちゃんの姿を見て、一気に血の気が引く。


「霊力に耐えられなくて……」

「……マジ?」


まずい。これは本当にまずい。


「あくまで噂なんだけどさ」


これは話しておいた方が良い。何故なら、あの場所は


「あのトンネル、男女二人で行くのは厳禁」


多くの負傷者・行方不明者が出ているから。


「カップルが車で事故を起こして、結婚直前の女だけが死んだ場所なんだ。生き残った男は、別の女に乗り換えて呪い殺された。女の霊は、幸せそうなカップルを恨み続ける。例え本当のカップルじゃなくても、男と女が一人ずつなら勝手に妄想して襲ってくるって噂。実際、もう二組のカップルが行方不明。殺されたかもって言われている」


二人の顔が青ざめていく。


「お前っ、なんで言わなかったんだよ!」

「だって、三人で行くと思うじゃん! 優司の性格上、話したら霊に同情する! そうしたら困るのは俺たちだぞ!?」

「だけど……さぁ……」


言い返せなくなった幸希は拳を握ると、静かに脱力して


「……舞衣ちゃん。情けない話だけど、二人の加勢はできそう?」


二人を助ける方法を考えるよう、切り替えた。こういう、感情的にならない部分は流石だ。が、しかし


「ごめんなさい……」


思い通りにはいかないもので、舞衣ちゃんは、俯いて涙を流し始めた。


「いや。僕が無理を言った。ごめん」


周りからすれば淡白だったかもしれない。だがそれくらい幸希は焦っている様子だった。


「……もしかしたら、大鳳家」


ふと、俺は思いついたことを口にする。


「優司たちの話が本当なら、大鳳家なら、何か手があるかも」


二人の目が見開かれる。

 俺らは互いに見つめ合うと、頷き、すぐ行動に移した。優司の式神に「大鳳家への案内」を命じる。こちらには式神も舞衣ちゃんもいる。イタズラを疑われることはないだろう。

 正直、俺自身、関わりたくない案件だった。怪我の危険があるということは、関わることで優司の足を引っ張ることになる。しかし優司がピンチなら話は別だ。できることをしたい。


 俺は、優司にとって一番始めの「理解ある」友人だったから。


 友人を見捨てて、失うなんて、ごめんだ。

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