第34話 模擬戦①

 「……いや、なんでぇ?」


悠麒さんから困惑の声が漏れる。


「いいじゃん! 舞衣の恋人がどのくらいの力を持つのか、この目で確かめたい!」

「嘘つけ! 玄武だろ、玄武が目当てだろ!」

「そうだよ! 親友の勇姿は見たいだろ!」

「お前、本当に神楽家頭首か!? 何、気軽に神守家に入ってきているんだよ! っていうかなんで模擬戦やるって知っているんだ!」

「全員、霊力ダダ漏れなんだよ! 何か事件かと思って来たら、ただの模擬戦じゃん! 気になるじゃん!! そもそも、そのうち娘が神守家に嫁ぐんだから、お義父さんが来たと思って許せよ、そのくらい!」


子どもみたいなやりとりをする悠麒さんと礼治さん。すると、霧玄さんが


「やめろ、見苦しい」


僕の代わりに二人を止めに入ってくれた。と、思いきや


「優司の父は俺だ」


思い切り、二人に喧嘩を売りに行った。


「はぁ?! 僕が養父みたいなものだろう! 一緒に住んで、主の面倒を見ているのも僕だ。形だけの養父は引っ込んでいろ!!」

「未来の父は僕ですぅ。優司くんから『お義父さん』って言われることはほぼ確定しているんだよ!」

「ばーか。こっちは正式な優司の保護者。実の父に一番近い存在だ。お前らが勝てるわけないだろう」

「なんだぁ? 喧嘩するかぁ?」

「……僕も模擬戦に参加しようかな」

「やってみろ、ばーか」


子どもが三人に増えた。困ったな。


「あの……」

「年長組が何をしているんですか。優司くんが困惑しているでしょう。ほら、始めますよ」


僕がまとめる前に、波青さんが口喧嘩の収束と模擬戦の開始を促す。


「やるかぁ」

「礼治、お前は優司の隣な」

「わかった。頑張って」


流石、切り替えが早い。三人はスッと、何事もなかったかのように準備を始めた。

 礼治さんが隣に座る。みんなが位置についたところで開戦の言葉をかける。


「それでは、模擬戦を開始します。ルールはただ一つ。殺さないこと。相手を殺さなければ何をしても良しとします。回復の札は一人十枚まで。全て消費し、なおかつ戦闘不能となった場合は脱落とします。制限時間は日没までです」


僕に続けて、青龍、朱雀、白虎、玄武、麒麟の順に五人が言葉を紡ぐ。


「我々従者五名、主を守るべく己の力を鍛え」

「誠意を見せるべく手を抜かず」

「いかなる敵にも屈することなく挑み」

「いかなる場合にも柔軟に対応し」

「命を懸けて戦うことを誓おう」


宣誓を受け、いよいよ開始となる。僕は一呼吸置いたあと、五人に合図を渡した。


「それでは……模擬戦、始め!」


 開始の合図と共に、全員が動き出す。


 早速、攻撃を仕掛ける古白さんと悠麒さん。それを待ち構える波青さん。避ける大鳳さん。防ぐ霧玄さん。それぞれの戦闘スタイルに違いがあって面白い。


「結構、迫力あるねぇ」


様々な武器が戦闘音を鳴らす中、少し大きめの声で礼治さんが言う。


「えぇ。しかし、まだ彼らはの段階ですから、ここから更にヒートアップしますよ」

「へぇ。それは楽しみだ」


神守家と神楽家の頭首が見守る中、時間の経過と共に戦闘は激しさを増していく。結界に矢や銃弾が当たっては落ちていく様を眺めながら、僕らは結界の外の五人を応援した。

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