第33話 提案
「模擬戦、ですか?」
挨拶を終え、帰宅して早々、悠麒さんから提案され、思わず復唱する。
「そう! 朱雀と白虎もまだ力を得たばかりでコツを掴めないと思うし、大戦になれば強敵と戦うことになる。いざという時のために、模擬戦を行うべきだ!」
やけにテンションの高い悠麒さんをじぃーっと見つめる。
「……本音は?」
「久しぶりにみんなと戦いたい!」
やはり個人的な要望だった。
模擬戦はかなり準備が必要となる。まず家を片づけ、結界を張り直し、回復の札を用意してようやく始められる。始まった後も僕は彼らの審判や見張りをしつつ、自分も避難する。もし敵が来た場合は彼らの戦闘を中断させて現場に向かう。僕の腕も試されるものだ。
しかし、悠麒さんの建前には一理ある。本番で誰かが死にました、は絶対に避けたい。今のうちに練習しておくことも必要だと思う。
「仕方ありませんね。許可します。ただし、僕に一週間ほど準備期間をください」
僕が言い終えるとほぼ同時に、悠麒さんが四枚の式神を飛ばす。行動の速さから、楽しみにしていることがよくわかる。
「さぁ、そうと決まれば準備! 家の片付けと結界の張り直しは僕が担当する。主は回復の札を作ってくれ」
廊下を走りながらそう言い残すと、悠麒さんは恐らく片付けのためにどこかの部屋へ消えた。マイペースな彼を呆然と見送る。
メールの着信音でハッと正気に戻る。内容を確認しようとメールを開くと、
『回復の札を五枚くらい作っておきます。当日、お渡ししますね。青龍』
『俺も五枚程度なら作れるだろう。当日、渡す。なるべく大量に生産してくれ。絶対に足りなくなる。すまんな。玄武』
二人からの連絡で、今後の展開を察した。案外二人もやる気らしい。
『わかりました。ありがとうございます』
返信後、すぐに札を大量生産する。
一週間、本気で札を作り続けても、まだ足りなくなるだろうか。
不安と若干の好奇心が手元を動かしていく。一枚、また一枚と札が重なり、少しずつ、積み上がっていく。
あまりの集中に、僕は夕日が沈んだことにも気づかなかった。作業の手を止めたのは、悠麒さんに「夕飯にしよう」と言われた時だった。
自分が思っている以上に、僕自身も楽しみにしているらしい。
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