第32話 挨拶

 朱音さんと虎之介さんから二人の神化の儀が無事に終了した報告を受けた。とにかく、成功して良かった。


 二人の神化の儀に付き合ってもらったお礼をするため、悠麒さんと共にを訪れる。


「神守優司です。神化の儀のお礼に参りました」

「お邪魔するよ」


山の門を潜れば、人間の姿になっている青龍に迎えられた。相変わらず、美しい姿をしている。長い髪と白い肌の隙間から見え隠れする鱗が、日の光に照らされて光っている。


「久しぶりだな、優司。なんだ、どうした? あまり見つめられると照れるぞ」


指摘されてハッとする。慌てて目を逸らすと、彼は優しい目で微笑んだ。


「まぁ、中に入れ。この私が許可する」

「ありがとうございます」


彼に招かれ、大きな扉を開く。その先は立派な御殿。静かな御殿を奥へと進めば、ついに


「おぉ、優司よ! やはり来たか!」


人の姿をした白虎が抱きついてくる。僕よりもずっと背の高い彼に抱きつかれると倒れそうになる。しかし、猫のように顔に擦り寄る姿は、どこか可愛くも思えた。


「こらこら。いきなり大男が抱きついたら困惑するでしょう。すみません、騒がしくて」

「疲れただろう。まぁ、くつろいでいてくれ。どれ、茶を出そう。緑茶で良いか?」


続けて朱雀と玄武が寄ってくる。二人もまた、人間の姿をしていた。気を遣ってくれているのだろうか。

 全員が揃ったところで、本題に入る。


「改めまして。大鳳朱雀と古白虎雄の神化の儀にご協力いただき、ありがとうございました」


お礼の品を渡すと、代表して青龍がそれを受け取る。


「こちらこそ、いつもありがとうございます」

「なかなか面白い奴だった。楽しかったぜ」


朱雀と白虎は楽しそうに大鳳さんと古白さんの話をしてくれた。随分と盛り上がったようだ。喜んでくれたのなら何よりだ。


「これで、安心して大戦にのぞめるな」


白虎の言葉に、口を開く。


「やはり、避けられない戦いなのでしょうか」


すると、青龍は複雑そうな顔をして


「こればかりは仕方がない。優しいお前には酷かもしれないが、負の感情はどこかで消化する必要があるんだ。蓄積されれば、更なる悲劇を呼ぶ」


僕が納得できるように説明をしてくれた。が、傷つく人が増えることを「仕方がない」という言葉で済ませることには、相も変わらず、悶々としたままだった。


「我は武瑠となら組んでも良いがな」


ふと、玄武が呟く。


「アレは麟児に続く逸材。覚悟さえあれば全てを守る力をだろう」


悠麒さんが「だろうな」と笑う。

 確かに、霧玄さんが悠麒さんのように神の力を完全に吸収できれば、守れるものは増える。しかし、彼の中から『人間』が完全に消える。その代償は大きい。まさか、世界のために家族を捨てろとは言えない。


「まぁ、お前が生きている間は決定権はお前にある。お前が死なない限り、こちらから強制はしないさ」


玄武はそう言うと、お茶をすすった。

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