第31話 朱雀の試練【side:大鳳】

 母から神化の儀を行うように言われた。説明を聞くと、本格的に人間を辞める儀式であり、従者は二十五歳になると必ず行うらしい。何故二十五歳未満の私が? と思ったが、おそらく前回のことが関係しているのだろう。手っ取り早く霊力を高める方法だから。


 朱雀の試練は回避がメインらしい。ただし、条件は朱雀に一度で良いから矢を当てること。弓の正確性も問われる。


「いらっしゃい。わたくしは朱雀。あなたの契約者になる者。あなたが新たな『大鳳朱雀』で間違いありませんね?」

「あ……はい……」


指定された場所に現れたのは、大きな赤い鳥。これが、朱雀。迫力がある。


「早速ですが、始めましょう。ルールは簡単。私の攻撃を避けつつ、この私から、一本取ってみせなさい。私は薄く結界を張っています。安心して、本気で来なさい。では、参ります」


弓を構える前に攻撃が始まった。羽を避けて、攻撃に移ろうとする。しかし羽が突き刺さった地面が燃え始め、再び逃げるしかなくなる。


「ここで一つ、アドバイスです。物理に頼ると、効率が落ちます。自らの霊力で矢を形成することが勝利への近道です。時間短縮になります」


確かに朱雀の言う通り、本物の矢を引いている暇はない。始めから矢を引いた状態にするには霊力を使って矢を作るしかない。しかし


「おや。霊力のコントロールは苦手ですか?」


矢が短いと思い長くすれば、形が歪になる。元に戻そうと頑張っても、今度は長すぎる。


「敵はあなたを待ってくれませんよ」


間髪を入れずに攻撃を繰り出す朱雀。え、一応味方だよね? 殺されそうなんですけど!?


「攻撃しなさい。消耗するばかりですよ」


そんなことを言われても、己の実力不足だけが露見していく。そもそも避けることに精一杯で弓を引くことすら叶わない。


「……もう一つだけ助言しましょう。私は何も使とは言っていません。仲間の得意を吸収し、上手く切り抜けなさい」


 __仲間の得意を吸収しろ。


 その一言で、思い出したことがある。


 母に強さの秘訣を聞くと、「一人で戦わないことかしら」と言っていた。どういうことかと聞けば、「他人の得意分野を吸収すること」と説明された。従者の中に女性がいるのは、女の視点を得るためだけではない。きちんと強さを持っているから。では、男性と同じように強くなれたのは何故か。そのほとんどが、技の吸収にある。一つ一つは弱くても、オールマイティなら「何にでも対応できる強さ」を得る。一つに特化する必要はない。弱いなりに強くなればそれで良い。

 強い、で思い浮かんだのは霧玄さんだった。彼は自分を『劣等生』と卑下していた。しかし今では悠麒さんに並ぶ強さを持つ。もちろん、神化したことも理由の一つだ。だがそれ以上に他人の技を盗んでいた。特に体術に力を入れたらしく、虎之介さんに頭を下げて弟子入りしたこともあるらしい。


 __なら、私はどうする?


 ほぼ『同期』とも言える先輩に古白がいる。あいつとは良いライバルだった。訓練の相手に選ぶことが多く、あいつの技はお見通しだ。

 癪だけど、あいつの体術は実戦向き。参考になる。あの技が使えたら、勝率は上がる。


 朱雀に向き合い、呼吸を整える。


「おや」


朱雀が何を考えていようと知ったことか。先手必勝。やられる前に、やる。


「動きが変わりましたね。しかし、その程度の体術では勝てません」


わかっている。古白ほど上手く体を使えない。だからこそ、私は……!


「本命は、こっち!!」


次は悠麒さんの戦術。足元を狙うフリをして、砂を蹴り上げる。視界が塞がったところを一気に詰める。その隙に弓を構える。至近距離なら矢の当たる確率は上がる。敵との距離は、わずか五メートル。いける。


 朱雀の左翼に刺さろうとした時、矢が激しく燃えて消える。朱雀の力と思えば


「素晴らしい! この短時間で私の技まで吸収しましたか! 良いでしょう、合格です!」


朱雀は満足げに言うと、私を背に乗せ、家の前まで送り届けてくれた。


 母を見て安心感し、一気に疲れが来る。家に着いた瞬間、体が動かなくなった。私の課題は霊力のコントロールか。そんなことを頭の片隅で考えながら、私は気絶するように眠気に身を委ねた。

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