第18話 噂のトンネル①

 「舞衣さんは戻っていてください。次の敵は先程よりも強敵です。慰霊は難しいでしょう」


そう彼女を旅館に送り届けたものの、正直な話、僕も危ない気がする。


「玄武の札、足りそう?」

「そちらは問題ないのですが……」


トンネルの入り口に立てば、威嚇だろう、過去一番と言えるほどの霊力が僕らを襲う。


「……これ、二人で対処できますかね?」


不安を抱く僕とは対照的に、大鳳さんは


「やるしかない」


矢を握り締め、トンネルへ入っていった。

 おそらく、『肝試し』に来た人たちの痕跡であろう、半分くらいの地点にはスプレーで絵や文字が描かれていた。更に進んでいくと、傷や血の跡が残っている。つまり、この近くが現場となる。

 注意深く進んでいくと、ある地点に来た時、敵の気配が消えた。


(なんだ、この嫌な感じ……)


僕は歩みを止めるが、大鳳さんは進んでいく。すると次の瞬間、もの凄いスピードで敵が襲いかかって来た。速い。突撃されただけで数本は骨が持っていかれそうだ。


「朱雀ッ!!」


咄嗟に彼女を突き飛ばす。何とか衝突を免れたが、敵の勢いが弱まることはない。状況に理解が追いつかない彼女を守りつつ、式神を放つ。


「時間を稼いでください」


所詮はただの紙。霊力が込められている、とはいえ長くは持たない。僕にできることは、全然で戦う彼女のサポートのみ。


「無事ですか」


大鳳さんに安否を確認する。彼女は頷いていたが、足から血を流している。


「……すみません」


奥歯をギリッと噛み締める。不甲斐ない自分が憎い。彼女を傷つけてどうするんだ。


「大丈夫。生きているなら、それで良い」


大鳳さんは何とか自力で立ち上がると、力強く弓を引く。


「主の作ってくれたチャンスは無駄にしない。死ぬまで戦う。それが私の役目」


矢が敵を貫く。しかし、これで終わるほど現実は甘くない。

 貫いたはずの敵の腹は、瞬く間に再生する。僕らに安心を与えることなく、敵は大鳳さんを襲った。


「腕を落とせ!」


緊急事態により、やや口悪く式神に命令する。式神は指示通りに敵の腕を落とした。が、敵が弱る気配はない。


(信仰が強いのか。形を見る限り、女性の霊。できれば苦しめたくないが……)


大鳳さんは接近戦に弱い。素早く距離を詰めてくる敵とは相性が悪い。


(大鳳さんを守りながら敵の動きを止めるのは難しい。さて、どこまでいけるか)


もう二体ほど、式神を呼ぼうとポケットに手を入れたその時だった。


 『信じていたのに』


 __ドクンッ


 敵の強い想いが僕の脳内に響く。心臓の音がうるさい。霊とリンクしてしまったらしい。


 まずい。


 「朱雀……ッ!」


大鳳さんの足枷にはなりたくない。その一心で式神を飛ばす。力が入らず、一体しか送れない。だが、彼女なら何とかしてくれるだろう。そう信じたい。

 意識が次第に薄れていく。僕は、最後の力を振り絞って、自分の周りに結界を張ると、重くなる瞼にあらがう間もなく瞳を閉じた。

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