一章
第1話 拒絶
憧れの人から、「好きです」と言われた。
僕が『普通』なら、きっと彼女を受け入れていただろう。文武両道、容姿端麗。それでいて優しくて、強い。高嶺の花。まさにその表現が似合う人だった。その彼女に、「好きだ」と、そう言ってもらえた。
それでも僕は、彼女を拒絶した。
彼女が好みでないからではない。僕には、『愛』だの『恋』だのというものが、理解できなかったからだ。
そもそも、似たような仕事をする仲間、とはいえ、住む世界が違いすぎる。彼女を光とするならば、僕らは闇だ。交わってはいけない、対となる存在。もしかすると、将来的に殺し合う運命が待ち受けているかもしれない。そういう関係だった。
僕と共にいれば、彼女は確実に不幸になる。将来のことはわからなくても、それだけは事実だった。
憧れているからこそ、好きだったからこそ、彼女には幸せになって欲しい。そう、僕よりもずっと頭が良くて、運動ができて、整っている容姿の、優しくて、強い人。そんな人が似合うだろう。必ず、彼女なら出会える。そういう人と幸せになって欲しい。
だから、拒絶した。
彼女の瞳に、微かに涙が滲む。美しい黄色の瞳に溜まった涙は、宝石のような輝きがあり、ガラス細工のような儚さがあった。
その涙を堪えながら、彼女は一つのお守りを僕に手渡して、足早にその場を去った。去り際の彼女の強い眼差しを見て、「やはり一度では諦めてくれないか」と肩を落とす。彼女の泣き顔をもう一度見ることになるのは、心苦しいものがあった。これも、親殺しの僕に与えられた罰なのだろうか。
長い髪を左右に揺らし、遠ざかっていく背を見つめる。彼女の将来を考えての判断ではあるものの、一人の女の子を傷つけた罪悪感が胸に残る。「この痛みを忘れるな」とでも言うかのように、お守りを受け取った右手が重い。
これで良かったんだ。そう自分に言い聞かせながら、教室にある鞄を回収する。もやもやとした気持ちが晴れないまま、空の色も明るさを失っていく。僕は重い足を引き摺りながら帰路に着いた。
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